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ご免侍 十章 決戦の島(八話/二十五話)

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あらすじ 
 ご免侍の一馬かずまは、妹の琴音ことねを助けるために鬼ヶ島を目指す。父と母は敵として一馬かずまの前に立ちふさがる。しかし船出をしたすぐに、散華衆さんげしゅうのもう一隻の鉄甲船てっこうせんが、襲いかかる。


 露命臥竜ろめいがりゅうが一馬めがけて野太刀を何回もふりおろす。彼の顔はもう血の気がなく、蒼白にも見える。鬼切おにぎりで受けながらも、その重さに腕がしびれはじめた。

(これはまずい)

 圧倒的な肉体の力、筋肉量が一馬よりも多い。力押しで潰されそうになる。

「一馬」

 海賊の娘、村上栄むらかみさかえが手槍を臥竜がりゅうに投げつけた。投げられた手槍を臥竜がりゅうがたたき切る。隙ができた瞬間に一馬は後ろに飛んだ。そのとたんに船が大きく傾きはじめた。

 轟音がひびくと横倒しになる鉄甲船てっこうせんから甲板の上の死体やけが人が一馬めがけて落ちてくる。

「海にとびこめ」

 誰かが叫ぶと同時に甲板が大きな破壊音とともに、真っ二つに割れてしまう。一馬はもう自分がどんな状況なのかわからない。海に向かってすべり落ちると蒼く黒い海の中にいた。

(海面は……)

 上から死体や木材が沈んでくる。それを避けながら海の上に顔を出す、うすい暗闇の中で天上の星が輝いてみえた。二そう鉄甲船てっこうせんは、形も崩れて海に沈みはじめている。その近くでは巨大なうずが発生して、人でも船でも飲み込んで海底にひきずりこんでいた。

 あわてて一馬は刀を苦労してさやにしまうと船から遠ざかる。近くにいる海賊船を探そうとしてが、暗く何も見えない。海流があるのか浮いたままでどこかに流されているのは判った。

(一人とはこんなに心細いのか)

 今までは、誰かが常に一馬のまわりに居てくれた。琴音ことね月華げっか、祖父の藤原一龍斎ふじわらいちりゅうさい、今は海の上で一人で浮かんでいる。

(恐ろしい……この感覚は、はじめてだ……)

 一馬はぐるりと頭を回すと陸地を探すが方向がわからない。天上には北極星があるが、それだけでは東も西もわからない。沈んだ船はもう見えなかった。ただ平たい板が浮かんでいる。壊れた甲板だろうか、一馬はそれにしがみついて足をゆっくり動かした。

(東西南北、どちらの方向に進んでも陸地はある)

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