SS サムライモンキーズ2(終) ケモナーワールド
下流にかなり流されてから俺は岸辺を探した。矢が痛いが無理に抜くと傷が悪化する。深くて速い水流は徐々に浅くてゆっくりになる。このあたりは平凡な田畑が広がる平和な地域だろう。俺は岸辺に近づくように泳ぐ。船を留めるための木の杭を見つけると手で握る。足はつくのでしがみつくように這い上がった。「ここはどのあたりだ」ふらふらと道を歩いていると、猫族が近づいてきた。「あんたケガしているじゃん」猫の女の子は、俺の体をじろじろ見ている「わたしはミロ、ミロちゃんと呼んでいいわ」このあたりの警備を担当していると説明された。
俺は傷のためか朦朧とした頭で、ミロに連れられて診療所へ向かった。医者が体を調べながら「かなり傷や骨折が多いな、よく平気だな」別に平気なわけじゃない、俺たちの領域では、これが当たり前だ。「治療はするが、治療費は貰うぞ」金なんて、ここらではまだ使っているのかと不思議に感じた。生活必需品や食料はある程度は、ロボット達の自動生成物が供給されるので、生きていける。俺たちは交易はしないが、たまにいざこざの解決にかり出される場合もある。その時は貴重な金属は貰っている筈だ。「俺は金はもってないが、警備とかはできると思う」「それでいいよ、村を守ってくれ」数日間は病院のベッドで休むことにした。
「ねぇあんたの所は物騒なの?」ミロは俺の刀に興味があるようだ。「ずっとこれで敵を倒している」日本刀の柄を叩いて見せる。水に浸かったので乾かすのが大変だった。「ふーん重そうだけど、すぐに使えるの?」この猫は武器とか持たないのか不思議に感じた。「ミロたちは得物は使わないのか?」「得物って何?」「あー手で持って戦う道具かな」「壊れたり、持ってくるのを忘れるとかないの?」ミロは好奇心旺盛だ、俺の事をなんでも知りたがった。説明をすると知識を吸収して行く。「それで、織姫ってかわいいの?」村の長の娘を特に聞きたがった。「かわいいけど、まだ小さいからな」「かわいそう」ミロはぽつりとつぶやく。「長の娘だからなぁ、別にかわいそうじゃないだろ」俺はムキになって反論をする。「だって、そんなおっかない所だと殺されたりしないの?」ミロは俺を見て心配をしている。「いや・・まずないかな・・・基本は雌は大事にするからな」もちろん例外はある、決められた雄との交尾に抵抗をしたり、縄張りを奪うために根絶やしにする時は殺される。そう考えると猿族の生活は陰惨に思えてくる。「そうだな・・わからないな」
俺はこの村に来てからは平和な巡回をする以外は、本を読むようになった。今まではそんな事すらしない。武器の教科書を読むためには文字は覚えるが、それ以外で利用はしない。歴史や文学や宗教の本を読む。俺もミロと同じだ、知らない世界に興味を持つと夢中になる。その中でも宗教は面白い、武術にも通じていた。昇華というのだろうか武術を極めると極めて宗教的な話になる、争いは戦わない事が一番の勝利で、争いを抑止できるのが最高の方法だと知る。当たり前だ、争いを続ければ消耗をするだけだ。もちろん戦略として生物が『他の生物から奪う』という行為を選択する場合がある。一方的な搾取だ。でも搾取相手が居なくなったら、その動物はどうなるのだろうか?別の何かを搾取できるのだろうか?「何を読んでるの?」ミロが顔を出す、資料のある家の前で座って読んでいた、夢中だった。「生物学かな、後は宗教の本も借りた」ミロは「宗教の人いるよ?会いに行く」と聞いてきた。
「こんにちわ、私はいろいろな宗教を学んでいます」牛だった。体の大きい雌牛は、丁寧にお辞儀をする。ムライと名乗る牛の宗教家は、ゆっくりと俺に利他愛や他人を許す話をした。俺はその新鮮な知識に触れると喜びを感じるようになる、ずっとこんな生活が続くと信じていた。
「鬼頭、探したぞ」二人組の猿が俺に会いに来た。「お前を殺せってさ」薄ら笑いを浮かべたのは、俺の村の奴らだ。「理由は?」「村から逃げたら殺せって命令があったんだよ」そんなルールは知らない。「俺は広東にだまし討ちされただけだ」「でも村に戻って来ない、逃げたって事だ」俺は油断をしていた、家の中に刀はあるが、もう腰にささない生活をずっと続けていた。そいつらは刀を抜いて斬りかかる、と思ったが二人の猿は立ち止まったままだ。苦しげな顔をしている。背後から首を絞められている。ミロが両手でサルの首をつかんでいる。濁った音がすると首が折れたのか、サルはぐったりした。「こいつら村に入ってきたから後をつけてきたニャン」変な語尾で可愛く笑うが怖すぎる。「ありがとう」「あんた気がゆるみすぎ」ミロから怒られるとは思わなかった。「怪力なんだな」「そぉ?私たちの種族は、この体だけで得物を捕るからね」世界は広いと思う瞬間だ、小さい争いごとで天狗になって、俺は強いと錯覚する、たかが遊戯で一番になったからどうしたって話だ。
「俺は村に戻るよ・・」「別にまた来たら私が殺すよ」かわいい顔なのに、言う事は物騒だ。「違うんだ、決着というか決別というか、終わりにしたいんだ」ミロは俺の顔を見ながら「じゃあ生きてたら、また戻ってきてね」俺はネロに、ロボット工場にあるものを作って欲しいと頼む事にした。
村に戻ると俺は広場の中央に連れてこられた。広東が居る「お前は村を裏切り、織姫を罵倒して、俺を殺そうとした、裏切り者だ」理屈がめちゃくちゃだが、一方的に吹聴して反論が無ければ真実になる。俺は「広東、一騎打ちだ」シンプルな話だ。事実を誰も求めていない、強さを求めている、強ければ正義だ。広東はあたりをキョロキョロと見回す、加勢が欲しいそぶりを見せるが、他の猿たちは一騎打ちに有頂天だ。織姫が姿を現すと「それでは一騎打ちで決着をつける、両者は始めろ」宣言をすると、周囲の猿たちは決闘者を中心に円陣を作る。
広東は覚悟を決めると同田貫を抜いた、昔の刀で剛刀として有名らしい。それに似せて作られたものだが、長寸で扱いが難しい。広東はそんな刀で自在に操り敵を倒してきた、腕は俺と同等だ。俺の技術より劣っているわけではないが、服従したフリをしたのは、将来の禍根になると考えての事だろう、隙があれば俺を殺そうと考えていた。そして実行した。俺が刀を抜かないので不信に感じただろうが、刀を突きつけて俺に向かって走る。俺は腰から銃を抜くと口径の大きいリボルバーの弾丸を全て撃ち込んだ。胸に受けた弾丸は動脈も傷をつけたのだろう血圧が急激に低下すると広東は気を失うように、崩れ落ちた。拳銃の利点は、体の内部を容易に破壊できる事だ。たとえ致命傷でなくても血圧が落ちれば、脳死してしまう。
猿たちはざわざわと騒いでいる「卑怯だろ」「反則だ」わめいている猿どもに俺は「強ければ正義なんだろ!」と怒鳴る。織姫は歩いてくる、俺の前に立ち止まると「私たちは銃は使わない決まりだ」悲しそうにしている。「知ってるよ」俺は織り姫に「でもな、誰かがもっと強い武器で俺たちを襲ったらどうなる?」
織姫は「お前は追放だ、猿族として扱われない、領域に入れば全力で殺される」宣言をすると、他の猿たちにも命令を徹底するようにと伝えた。銃をしまうと俺は猿の村を歩いて出る。他の猿が殺意の目で俺を見る、ルールを破った猿として汚名が残る。織姫が少し泣いていたような気がするが忘れる事にした。ネロが居る村までゆっくりと歩く。
終わり
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