SS 蟲【剃るべきか、剃らざるべきか。それが問題だ。】#青ブラ文学部
水銀軟膏を塗ると痛みがある。公園の女に声をかけたのが悪かったと反省するが遅い。いつもはカフェの女給に金を払っていた。
一目で惚れた、彼女のやつれた顔と鋭い目は憎悪でゆがんでいた。そのゆがみがたまらなくそそる。憎んでいるのに男に寄生する事で、命をつなぐしかない。吸い寄せられるように彼女の前に立った。
「二枚だよ」
「二十円か?」
もっと安い女はいるが、彼女でなければいけない。俺は払うと約束して彼女の骨ばかりの手首を握る。痩せて病んでいる彼女を抱ける、それだけで怒張した。
「物好きだね……」
俺の肩に彼女は顎を乗せながらつぶやく。抱いてしまえば細く堅い体の女を、うとましく感じた。邪険に立ち上がると黙って部屋を出た。失敗したな、高すぎる、後悔を感じる。
「あちちち」
股間をフーフーと吹くとケジラミが落ちた。いまいましい蟲は、ひらべったくあの女のようだ。しかし薬だけでは治らない、卵が死なない。
「剃るべきか、剃らざるべきか。それが問題だ。」
シェークスピア気取りで悩むが剃るしかない。真新しいゾーリンゲンのカミソリを買ってシャボンを塗りたくると下の毛を剃る。一物に傷でもつけたら笑えない。熱いタオルで拭うと子供の頃を思いだす。毛を持たない股間は奇妙でグロテスクだ。
もう蟲はいない、せいせいする。
「あら、あんた? 」
あの公園で、蟲をうつした女が笑っている、また俺はとても強い情欲を感じる。今度は大丈夫だ、毛は無い。
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