ご免侍 七章 鬼切り(十九話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をした。祖父の藤原一龍斎は、一馬を刀鍛治の鬼山貞一に会わせる。貞一の娘が母親だった。そして母は殺されていた。鬼山貞一から、母は生け贄にされたことを知る。生け贄の場所は大烏城だった。
十九
「船旅かい……」
お仙が悩ましげな顔をする。問題は船酔いだとみなに教えた。
「酔いますか」
「酔うよ、体が動かなくなるほどきついよ」
川船に乗った事はあるが、川と海ではまったく違う、みなが顔を見合わせて苦笑いをした。弁才船は帆がある船で、歩くよりは速い。
鬼山貞一が、立ち上がると明日には出立すると言い残して鍛冶場に戻っていく。月華が一馬の肩を叩く。まるで男のように拳骨で殴った。
「一馬」
「痛いな、なんだ」
黙って外に出るので、一馬もついていくと、後ろを向いたまま無言だ。
「どうした」
「頼みがあるのさ……」
くるりと振り向くと、やたらとかわいく見える。媚びている。一馬ですら気がつく程に、月華は媚びていた。
「……何かあるのか」
「私が誘拐されて修行したのは、岡山藩の山奥だよ……」
江戸で誘拐された子供は、忍者の修行のために連れ去られていた。
「つまりそこが悪の根城って事か」
「そうだね、そこに琴音が連れて行かれるの」
やっと敵の正体が見えてきた、一馬は両の手を握りしめる。
「そこを潰せばいいんだな」
「……話が早いね、みんなを助け出したい」
さらわれた子供達を助ける。ご免侍の仕事だ。一馬は、いつのまにか祖父の一龍斎が死んだことを気に病まなくなっていた。自分の目標が見える。気力が徐々に復活していた。
「それでね、もし成功したら……」
「うん……なんだ」
「あたしが、あんたの嫁になってあげるよ」
体をくねらせて恥じらう月華を見ていると、罠としか思えない。
「うむ……、心づかいは感謝する」
「……なにそれ」
「なにって……」
「私が嫁じゃ不満なんだ」
一馬をにらむ月華の眼が殺気に変わりはじめた。