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ご免侍 十章 決戦の島(十二話/二十五話)

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あらすじ 
 ご免侍の一馬かずまは、妹の琴音ことねを助けるために鬼ヶ島を目指す。父と母は敵として一馬かずまの前に立ちふさがる。しかし船出をしたすぐに、散華衆さんげしゅうのもう一隻の鉄甲船てっこうせんが、襲いかかる。船は沈み助けられたが、敵に捕らえられた。


十二

 当時から大麻はある、江戸の寺で小坊主が麻の若葉を食べさせて、住職達が寺を破壊した話が『甲子夜話』に伝えられている。散華衆さんげしゅうも部下に麻薬を使い意のままにしていた。

(しまった、あの水か……)

 幻覚が見える、感情が高ぶり怒りや悲しみが波のように頭の中でうずまく。耳元では、女達の嬌笑きょうしょうが聞こえた。一馬は朝に飲んだ水に麻薬を入れられたと気がつく。

(一馬……)

 どこか遠くでささやく声が聞こえる。何度も呼びかけられると母だと判る。

「母上……」

 もとより母の記憶はあまりない、ただとても幼い時に母のひざに頭を乗せて眠った事を覚えている。やさしく頭がなでられた、気がつくと母のひざで眠っていた。

 ゆっくりと体を起こすとめまいがして頭をふる。

「一馬、地下の洞窟に船があります。それで逃げなさい……」
「……母上も一緒に」
「いえ、もう私は長くは生きられません」

 見れば胸元は無惨に肋骨が浮き出ている、肉もなく亡霊のような体だ。

「なにがあったのです……」
「……琴音ことねを産んだ後はもう、生きる力を失いました」
「江戸にいけば……」
「私は、海に沈みます」

 元気ならば美しい顔もやつれて生気もない。母は笑いながら一馬の手とり握りしめる。一馬は幼子のように涙を流した。

「置いていけません」
「井戸に麻の煮汁をまぜました、城内の兵士達は戦えません、いまの内に琴音ことねを頼みます」

 抱きかかえよう考えたが、もう立つ事も難しそうに見える。おぶって逃げるかと思ったが、父がいる。強敵がいる時に母をかばいながら戦うのは至難だ。

「待っていてください」
「地下に外海に出られる洞窟があります」

 妹を助けて海賊達と合流後に母を助けよう。一馬は母の冷えた手を握りしめて固く誓う。母を置いて大広間を抜けると、暗い廊下が見えた。

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