ご免侍 八章 海賊の娘(二十話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をした。母方の祖父の鬼山貞一と城を目指す船旅にでる。一馬が立ち寄った島は、水軍が管理していた。海賊の娘、村上栄は協力する代わりに一馬との婚姻を望んだ。海賊の港に鉄甲船が突入する。散華衆の四鬼、大瀑水竜は一馬に倒される。
二十
「遅いよ、何してたの」
「何もしてない」
反射的に口を手でぬぐったのが悪かった。露命月華は、何か勘づいたのか怒りの眼を向ける。
「あんたって、本当に……まぁいいわ、こっちきて」
「どうしたんだ」
月華に手首をつかまれてグイグイと引っ張られる。でも嫌な気分にはならない、つかまれた手首があたたかい。
「なにを笑ってるの」
「笑ってないよ」
「うそだね、嬉しそうだ」
「それは、お前に手をひかれているから……」
「……馬鹿すぎてどうしょうもないね」
夜なのに月華が赤くなっている気はするが、それはそれで嬉しかった。
(いや本当に俺はどうしたんだ)
色恋に、こんなに翻弄されるとは思わなかった。夜の道を歩く先には男が立っている、兵次郎だ。
「みなの命を助けていただいてありがとうございます」
「こいつが話したいんだってさ」
兵次郎が一馬に頭を下げる。散華衆というと奇怪な技を使う忍者ばかりと思っていたが、目の前の兵次郎は、普通の男にしか見えない。
「礼はいらない、俺は敵を倒しているだけだ」
「あなたは散華衆の、四鬼を倒されたのですか」
金鬼
風鬼 ねじれ念仏
水鬼 大瀑水竜
隠形鬼の蝮和尚
指を折りながら、倒した相手を教えた。
「そうですか……、そうすると残りは天照僧正と大烏元目ですか……」
「それはどのような男だ」
「いえ天照僧正は、女です」
女……と驚くが性別などは関係ない。誰であろうと斬る時は斬る覚悟はある。
「私は彼らの近習として働いていました。今回も重要な役目で船を出しています」
「兵次郎は、私と通じてるんだよ」
にやりと笑う月華と兵次郎が、一馬を見つめる。