ただ歩く人【カバー小説参加作品】
ただ歩く人として視線を落とす、歩く速度に奇妙なテンポを感じる。頭の奥の方で重い太鼓が叩かれていた。そのテンポにあわせて歩く。
無意識で動かす手足は、自分のモノに感じない。左肩のショルダーバッグの重さで体が歪むような錯覚がある。
(重いな……何を入れているんだ)
持って歩かなくてもいいものを一杯つめこんで満足する。ただ歩くだけなのに大きな疲労感が広がっていく、何を背負って自分が歩いているのか思いだす。
会社の資料
折りたたみ傘
非常用の小銭をつめた財布
ペットボトル二本
古いコンパクト地図帳……
(不要なものばかりだ)
重さに安心感があったのは若い時だけだ、年を重ねたら不要な物は降ろした方がいい。判っていても使わないモノを持ち歩く。何も持っていないと不安だ。
ふと、どこかでカレーの匂いを感じる。懐かしい家庭のカレーだ。母が作った粉っぽいカレーを、大きなスプーンでほおばった。
ごくりと喉が鳴る。
「よし今日はカレーだ」
右肩にショルダーバッグを乗せて早足で歩き出す。
カバー小説に参加しています。ふつうに食いしん坊の話になりました。
カバー元作品です、ありがとうございます。