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SS 猫を拾いすぎて英雄になった。#ストーリーの種

猫を拾いすぎて英雄になった。】俺はそんな動画を見ている。動物モノは定番だ、猫を保護してかわいがる動画は人気がある。彼は子猫を救う事で、英雄として認められたかった。俺はこの動画を見ながら上司に質問をした。
「動画の更新が止まった後に、動画の作成者が行方不明?」

探偵事務所のパソコンを見ながら上司はうなずいた。変な事件を頼まれる事がよくある事務所だ。行方不明事件では普通は動機から探す。恋人にふられたとか病気とか、借金とか色々あるが事件性があるとお手上げだ。交通事故のひき逃げで見知らぬ場所に捨てられた男も居た。探しようが無い。

「昔はカブトムシやクワガタも飼育していたのか……」
過去の動画の投稿を見ると、大きな箱の中で甲虫を育てる動画が残っていた。昆虫も人気がある。カブトムシを交配させて美しい品種を作るマニアも居た。彼は虫よりも子猫の方が再生数が稼げると気がついた。

俺は動画を作った男の交友関係を洗うが、なにしろ今の時代は全てがデジタルでのやりとりになる。パソコンの中身が見られないと手がかりは出てこない。彼は通院歴もないし健康体で自殺の兆候も無い。

事件性があるなら、探偵事務所では力不足だ。出来る事は動画を見てコメントを洗うくらいだ。再生数は百万を超えていた。彼の動画への疑念もあるのか通報をしたと報告するコメントも残っていた。

(子猫ひろいスギじゃね?)(近所にどんだけ子猫が居るんだよ)(この前拾った猫はどうなったんだ?)

そう言えば彼が保護した猫は家には居なかった。拾った猫はどうなったのだろうか。俺は彼の家を探す事にする。彼の住まいは一軒家で親はもう死亡をしていた。今回は親戚が失踪届を出して財産の整理をするための調査だ。彼の部屋には、パソコンがあるがパスワードでロックされている。

「台所は……猫の餌くらいか」

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家は猫臭い、猫の尿の臭いがしみついている。あの特有の刺激臭。猫は居たのだろうが、今は見つからない。俺は部屋を見て回るが一室だけ異様な部屋がある。おがくずが敷いてある大きな板で囲った箱が床に置かれている。二メートルはある箱の中は熱を帯びていた。おがくずは昆虫などを飼育している時に使う。

箱の中に白い丸いものが見えた。台所からワリバシを持ってくる。ひっくり返すと子猫の頭蓋骨だ。おがくずから虫が出てくる。シデムシに見えた。死骸を食べる甲虫で珍しくは無いが、わざわざ飼育はしない。彼は子猫を殺して、ここで処理していたのか?病弱な子猫の処理をしていたのかもしれない。しばらくおがくずをかき回すと想像した通りに大きな骨が出た。警察に連絡をする。

「板の縁に血痕があります。事故だったそうです。」
上司に報告をしてレポートをまとめた。動画制作者の彼はいつものように子猫を処理しようとして頭を打って箱の中に落ちた。打ち所が悪いのか死んだ後は、死骸を食べるシデムシに食われたのだろう。おがくずは深く服も体も底まで沈めてしまった。親戚はそんな気味の悪い箱の中までは見なかった。

子猫の大量の骨と一緒に彼は眠っていたと思うと………

終わり

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