ご免侍 九章 届かぬ想い(六話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬の父が、散華衆の隠形鬼だと暴露された。一馬は、連れさられた琴音を助けられるのか。
六
大きな背中は岩と同じだ、一馬は子供に戻って父親にたずねる。
「父上、ご免侍とはなんでしょう」
「しがらみに負けない侍だ……」
しがらみが判らない、今でもわからない。父は何に縛られていたのか……
朝日が障子から差し込んでいる、ゆっくりと目を開ける。父親の夢を見たのは、ひさしい。父の存在は大きいが、友に暮らした時間は短い。いつも仕事で関東のあちこちを旅していた。
(父がなにゆえに散華衆に加担したのか……)
考えても意味がない、当の本人に聞いたところで理屈を説明されても納得はできない。母を殺した散華衆に……いや、もし父が母を殺していたら……
(だめだ、だめだ、無駄に考えると迷いになる)
今は天照僧正を倒す事に集中する。
布団から起き上がろうとすると……白い腕がからみついていた。横目で腕の主を見ると……村上栄だ。
「栄殿、何をしています」
「う……うん」
ぐいぐいと体をゆすって起こそうとすると太い腕が首にまきつく、いや締められた。まるで大蛇のような腕は柔軟ではずそうにも取れない。
(なんて怪力だ)
ぎゅーっと腕に力が入ると、大きな胸に顔を埋まる。窒息する。その豊満な胸は口と鼻をふさいだ。
「んーんー」
「あっ ごめんよ」
ぐいっと両肩をつかまれて体を起こされる。息が上がって顔が赤い。
「寝てたから布団にもぐりこんだ」
「はぁーはぁー。それはいいのですが、いやよくない、まだ嫁入り前だ」
ぐっとにらむと、まるで恥じらうかのように顔をふせる。
「ごめんなさい」
「いや、怒ってるわけではないが、その、私は死地に向かう。栄殿と結ばれるかはわからない」
「だったら、もう子を作った方が早い」
腕が肩から腕にまたからみつく、目の前には若武者のような精悍な栄の顔がある。眼を見開いたまま口を突き出した。
後頭部に衝撃が走ると忍者の露命月華が高く足をあげて踏んでいた。そしてぐりぐりとねじる。
「早く起きて支度をしろ、みなで相談する事があるってさ」