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【掌編小説】リレー小説③(日出詩歌さんの続きです)#電車にゆられて
水車の音が小さくなり音が消えた。目の前の女性は無表情に指を突きつけたままだ。凝固した世界は息するのもむずかしい。息が荒くなる。
「……俺は死んだのか」
「まだ生きたいんだ」
「死にたくない」
「生き返っても悪い事しかないかも?」
「俺はなんで死んだ」
女性の顔は、ゆっくりと輪郭が崩れるとめまぐるしく相貌が変化する、少女だったり主婦だったり、老婆だったり娼婦だったり。
「やめてくれ、やめてくれよ」
「あなたが殺した人たちよ」
「ここは地獄じゃないのか」
「あなたは誤解している、地獄の刑罰は、こんなものじゃすまされない」
水車の音が戻る。カラカラと鳴る水車は、郷里にあった水車と同じだ。
「生き返れば、つぐないする事も可能かな」
女性は笑っている。生き生きとした彼女は生命の象徴のように見える。こんな女性と暮らせたらきっと俺は誰も憎んだりしなかった。
「切符をくれ、生き返る切符をくれ」
カラカラと水車が鳴っている、女性はいつのまにか消えている。どこかでつぶやく声がした。
「……生き返っても良い事はないかも……」
俺は涙を流しながら動けない、誰かタスケテくれ、俺を生き返らせてくれ……
水車の近くに石像がある。まるで涙を流したように濡れている。