SS 空飛ぶ先生 #爪毛の挑戦状
今日は一時限目から噂の先生の授業だ。教科書を用意していると、私の前の席にサリーが座りくるりと振り向く。ハイスクールの教室は、いつものように騒がしい。
「――あの先生は空を飛ぶんだって」
サリーが振り向きながらひそひそと噂話をする。教壇の四十歳くらいの女性教師が小さな声で教科書を読んでいる、彼女は実際の年齢よりも老けて見えるのは長い髪に白髪が混じっているせいだ。先生が森の上をホウキで空を飛んでいるところを見た、魔女だとサリーがつぶやく。私は黙って聞いていると鋭い声が飛んできた。
「サリー、前を向きなさい」
舌打ちしながら彼女が女教師を馬鹿にしたような顔でつぶやく。
「年増が」
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「サリーが死んだって」
「魔女の森でしょ? 不良のたまり場じゃない」
同級生は猟奇的な事件で命を落とした。森で無惨な姿で死んでいたのを発見される、不良の何人かが逮捕されて自白したと噂になるが、真相はわからない。報道がほとんど無い。小さな町で、もっと話題になりそうなのに保安官も住民も恐れるように口を閉ざしていた。
「あなたはサリーの友達よね? 」
廊下を歩いているとあの空飛ぶ先生の噂がある女性教師に呼び止められた。
「サリーは……前の席でした」
「なら手伝ってくれる? 彼女のために、お花を用意したの……」
供養のために一緒に来てくれと言われた。
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魔女の森は、魔女が住んでいたと噂がある暗く深い森で、当時は魔女狩りで、女性が何人か吊るされたと聞いている。森は独特な陰鬱な雰囲気がある。
「……あなたも私を中傷していたの? 」
しばらく森の中を進むと前を歩く先生が怒りを押し殺した声でつぶやく。
「若いからって……すぐにあなたも醜くなるわ」
私には判る、彼女がここで若い男達とSEXをしていた、それをサリーが知っていると勘違いをして醜聞を恐れて殺した。私も殺すつもりだ。
「あんたも魔女の森に呪われて死ねばいい! 」
叫びながらサバイバルナイフを取り出す。私はゆっくりとした動作で呪文を唱える。魔法で大鎌を作り上げた。あっけに取られている先生の首を大鎌で切り落とすと驚いた表情のままで首が地面に転がる。何をされたか判らないまま、空飛ぶ先生は死んだ。巨大な鎌は草刈りで使う鋭く曲がった農具だ。鋭利な刃は首も落とせる。
「この街も滞在は短かったわね………」
数千年を生きた私は魔女の噂があるこの街に訪れる。魔法で子供の居ない夫婦を騙して学校に通う。平安で幸せな時間を過ごせたが、この町に居たのは魔女ではなくサイコパスの先生だけだった。
私は適当な立木から利用できそうな枝を見つけて鎌で切り落とした。枝にまたがると私は夕闇の空に飛び上がり街を去る、また魔女の噂がある場所を探そう。