
Photo by
komaki_kousuke
SS ちっちゃな願い【秋桜】 #シロクマ文芸部
秋桜の花びらが落ちる、大きな花びらは地面にふりつもると歩くのが大変だ。
「秋桜の花びらは大きいからね」
「当たると危ないよね」
双子のミルとモルは、薄紅色の秋桜の森を抜けて家に戻る。今日は大事な話があるから早く帰らないといけない。
ミルは女の子、モルは男の子でとんがり帽子をかぶっている。妖精の姉弟は、とても小さく身長は人間の指くらいしかない。
「ただいま、何の話?」
「おかえり、今日は修行の話だよ」
「人間にサービスするのね」
「妖精だからね、人へ奉仕しなくちゃね」
母親は双子の頭をなでながら
「ミルは男の子の家で、モルは女の子の家に行きなさい」
妖精は人間達がくれるミルクで生きている。夜中に外に置かれるミルクはとても貴重だ。ミルクをもらうためには、夢を見せなくていけない。それが昔からのしきたりだ。
「モルは、女の子に何を見せる?」
「そうだね、秋桜が咲いている場所で結婚式かな」
「なんかステキそうね」
クスクスと笑うミルは、男の子がどんな夢を見たいのか判らない。
「モルはどんな夢みたいの?」
「……かわいい女の子の夢かな」
「そんな夢でいいんだ! まかせといて」
妖精の夢はとても強い影響を与える。子供に見せる夢は未来を決める。
xxx
モルが夢を見せた女の子は、成人すると秋桜が咲く野原で結婚式をした。本人のとても強い希望だった。
ミルが夢を見せた男の子は、幸せそうに女の子を見つめる。彼は自分より二回りも歳上の女性と結婚した。本人のとても強い希望だ。
「ミル……、どの女性の夢を見せたの?」
「だって、村で一番美しい女性を見せたんだけど……」
男の子が大きくなると、もちろんその女性も歳を……
※ヨーロッパでは、妖精のために深夜にミルクを入れた小皿を置くそうです。
