SS 迷子【#夕焼けは】#シロクマ文芸部参加作品
夕焼けは光を失い空が暗くなる、街の灯りが遠くに見えた。小さな女の子は箱をかかえて、とぼとぼと土手の上を歩いている。
「みっちゃん、飼えないの」
「でも鳴いている」
「うちは無理なの」
「かわいそう……」
拾ってきた子猫は、箱の中でニャーニャーと鳴き声をあげている。母親から捨てなさいと言われた。
(どこまで来たのかな……)
見知らぬ道を歩いているのに気がついたが、戻る事もできない。箱の中から鳴き声が消えていた。
(死んじゃったのかな……)
子猫、真っ白でかわいい子猫。誰が捨てたのかわからない。道ばたにあった箱を開けてみると、ひょっこりと顔を出した子猫を見て一緒に遊びたいと思った。
(猫ちゃん、死んじゃった)
ただただ悲しい、どこに捨てようか迷っていると前の方から人影が見える。二本足で立っている猫だった。
「おやおや、泣いているのかい? かわいそうに」
大きな体の黒猫が、みっちゃんの首筋をむんずとつかむと連れて帰る。大きな壁の大きな穴の中につれてこられると、みっちゃんを座らせて、箱の中身を見る。
「死んでるね」
「……」
「大丈夫だよ、大丈夫、あんたは人だから、少しばかり魂をもらうよ」
「どうなるの?」
「生き返るのさ」
黒猫は、みっちゃんを抱きしめると横になり子猫と一緒に眠った。どこかでサイレンの音が聞こえる。
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「みっちゃん、みっちゃん」
「なに? おかあさん」
いつのまにか公園のベンチで寝ていた。夜も深く周囲には、パトカーとおまわりさんが立っている。
「どこに行ってたの?」
「ええっと、猫と一緒に寝てた」
「心配したのよ」
それだけ言うと母親はみっちゃんを抱きしめて泣きだす。抱きしめられたみっちゃんは夜空を見上げると眼がキラリと光った。
木陰で見ていた黒猫は、白い子猫をくわえてそっと姿を消す。白い子猫は小さく「おかあさん……」と鳴いている。