ご免侍 八章 海賊の娘(十話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をした。母方の祖父の鬼山貞一と城を目指す船旅にでる。一馬が立ち寄った島は、水軍が管理していた。海賊の娘、村上栄は協力する代わりに一馬との婚姻を望んだ。
十
頭から突っ込む縮地の法は欠点もある。直線的なので攻撃の範囲を予測しやすい。それでも瞬発力で飛び込まれると対応できない場合が多いが、目潰しで一馬を行動不能にした大瀑水竜の技は、一馬の戦法と相性が悪すぎた。
「死ね」
倒れている一馬めがけて鎖打棒の柄の部分を打ちおろす。
「やぁぁ」
かけ声が一閃すると長槍が突き出された。大瀑水竜は、あわてて後ろに飛び退いた。村長の娘の村上栄が、槍をもって突きまくる。手数が多いので敵は避けるのが精一杯だ。
ドーンッ
また大筒の音がすると海面に着弾して、大きな波が来る。大瀑水竜は、波に足をとられるとそのまま海に流されてしまう。白煙があたり一面に漂い真っ白だ。
「大丈夫か」
「すまん」
村上栄に、かかえられて立ち上がると涙を多く流したせいかうっすらと見えてくる。
「逃げるぞ」
ぐいっと腕をつかまれて組まれると、横に並びながら走りはじめた。その力の強さは、女とは思えない強引なもので、なかば引きずられるように一馬は走るハメになる。
屋敷に到着すると一馬は真水で顔を洗いなんとか眼が見えるようになった。
「父上、今回は戦船で港を破壊しています」
「うむ、大筒まで乗せる鉄甲船をどこで作らせたのか……」
村上主水は、たびたび船が来て子供をさらう噂があったが、戦をしかけられたのははじめてだという。
「鍛冶場はあるか」
「もちろあるが……」
鬼山貞一が立ち上がると兵器を作ると嬉しそうに笑う。
「今から武器を作るにしても、間に合わないのでは」
「あの大筒は、それほど遠くには飛ばないから平気じゃ」
確かに屋敷までは飛んでこない。
「それよりも一馬の戦いっぷりは凄かったぞ」
「え……そうですかね」
村上栄が、体を寄せると一馬をぐいっと抱きしめる。まるで男に抱きしめられたような安心感があるのが、なんか変な気分だ。
「なにしているのよ」
月華が怒りだしている。