SS 尼寺にいけ【お返し断捨離】 #毎週ショートショートnoteの応募用
「断捨離、断捨離」
長屋の外で物売りの声がするので、八さんが外に出ると勧進聖がいた。
「物乞いなら、よそでやんな」
「あなたの心の断捨離をいたします」
八さんは、断捨離がわからない。
「何か食えるものなのか?」
「いえいえ、余分なものを捨てて幸せになることです」
「余分な物は、ねえよ」
八さんは自分の狭い部屋を見せる。物なんぞ置く場所がない。
「いえいえ、心の断捨離です」
「心は捨てられないぞ」
心を捨てたら石の地蔵と同じだ。
「いえいえ、余計な心です。たとえば悪い感情とか」
「金が欲しいとか、女が欲しいとかか?」
「そうです、煩悩は捨てられます」
「どうすればいいんだ?」
「この袋に手を入れてください」
坊さんは托鉢のために袋を首からかけている、そこに手を入れろと袋をさしだす。
「こうか?」
八さんが手を入れる、すとんと心が空になり悟ったような気分だ。
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熊さんが心配そうに八さんを見舞いにきている。
「それから何もしたくないんだ」
「坊主のせいだな、欲がなくちゃ生きてる意味がない」
「どうすればいいんだ?」
「お返し断捨離寺があるよ」
「なんだいそれは?」
熊さんが八さんを連れて寺に行くと、そこは尼寺だ。
「ここで煩悩が手に入る、金あるかい」
「少しはあるが……」
なけなしの金を払うと、たっぷり煩悩を返してもらう。満足して帰る八さんを見ながら、断捨離寺の住職はうれしそうだ。
「一度捨てて、また手にすれば忘れません……」