SS 面【反るべきか、反らざるべきか。それが問題だ】#青ブラ文学部
江戸で面職人をしていると変な依頼が来る。
「天狗の面を飾りたい」
天狗だけならいいが、鼻への注文が多い。長くしろ太くしろ細かな指定が入る。特に問題なのは反りだ。反りすぎると重さで壊れる事もある。
「反るべきか、反らざるべきか。それが問題だ」
注文から張形として利用していたと思う。芸者遊びで使うと想像した。
「御免」
その日は店先に侍が来る、商談のために部屋に通すと武家の姫様が不妊で悩んでいる、ここの面は子宝に恵まれると満面の笑みを浮かべながら、小面と天狗の面を注文した。
※小面は、若い女性の面
「百両ある、頼んだぞ」
噂に尾ひれがついて縁起物にされていた。売れれば何に使われても文句は無い。特大の鼻をつけた天狗の面ができあがる。武家から使者が来ると、屋敷に来てくれと駕籠を用意された。
町駕籠とは違い、木組みで漆が塗られた権門駕籠で屋敷に到着すると、奥に通された。部屋は寝室だろうか香がたかれている。
「ここでお待ちなさい」
老婆の侍女が小面をもって襖の奥に消えると、しばらくして戻ってくる。
「天狗の面をかぶり、中にお入り」
黙って面をかぶり、美しく装飾された襖を引いて中に入ると面をつけた姫がいた。透けるような薄い絹をはおり、布団に横たわっている。俺は黙って姫を抱いた。
何回か店に駕籠が来たが、しばらくすると音沙汰がない。姫がどうなったのか判らない。