SS 娘の好きなゼリー【思い出/ゲリラ豪雨/高級ゼリー】兎耳セツナ三題枠参加作品
娘のために高級ゼリーを買うことにする。地下鉄に乗るが盆休みなのか都内は人が減っているので車内は空いていた。
(ゼリーは何がいいかな、フルーツたっぷりの詰め合わせでいいか……)
妻は二年前の交通事故で死んだ。娘は妻と一緒に乗っていた。とてもかわいい娘で溺愛していた。駅に到着して地下鉄から降りて地上に出ようとするが階段から水が流れてきた。
(ゲリラ豪雨か……)
まるで滝のようにあふれ出る雨水。天井からも雨水が漏れ出ている。革靴が水に濡れた。急いで戻ろうとすると、地下街の照明が消える。非常灯の緑色の照明だけが見えていた。
(いそがないと、娘にゼリーを……)
びしゃびしゃと歩くが徐々に深くなる。足首から太ももへと水位があがる。
(都内だぞ……なぜ排水しない……)
もうワイシャツもズボンもずぶ濡れだった。思い出のフルーツゼリーを娘に届けたい。それだけのために非常口に向かう。
(娘はブルベリーゼリーが好きだった、妻はグレープフルーツだ)
そう考えると自然と笑みがこぼれる。胸元まで水につかりながら非常口に到達すると地上への階段があった……
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「ただいま」
店員からは気の毒そうな顔で半値で南国のフルーツ入りゼリーを買えた。もうそれだけで十分だ。TVをつけると都内のゲリラ豪雨の被害を伝えていた。マンホールが水圧で壊れた映像も流れている。部屋に入り、声をかける。
「フルーツゼリーだぞ」
妻と娘の前に、おいしそうなゼリーを置く。供養のために線香をたいた。娘は二年前に妻と一緒に……