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ご免侍 一章 赤地蔵(二十三話/三十話)
あらすじ 一馬は、侍と医者の暗殺を頼まれる。謎の男達に襲われていた娘を助けた。
「夜鷹さんは、体が悪かったのでしょうか」
「過酷な仕事だからな、外に居れば虫にも刺される」
普通の女郎のように屋内で仕事ができるわけもなく、土手にゴザをひいて客を取っている。
「ならば胸の病の薬でしょうか」
「そうか労咳の薬をためしていたのかもしれないな」
南蛮の薬だ、日本人に合うとは限らない。明庵は夜鷹たちに使って試していたと一馬は納得する。
「うむ、それでも謎が残る……」
「なにがでしょうか」
琴音が、顔をのぞきこむように一馬を見ている。その距離が近いので一馬の方が居心地が悪い。
「琴音殿、私も男なのでそう近寄られると不用心ですぞ」
「……一馬様は、そのような事はされません」
少しの間、琴音は、キョトンとした表情だったが、ふふふと笑いながら前を向いて先を歩く。本当にくるくると表情が変わる少女だ。一馬の笑顔が消えた、夕暮れの土手に誰かが立っている。
「あんた、医者を殺したのかい」
濁ったような声で一馬を怒鳴る、土手を進むと夜鷹がゴザを持って立っていた。苦しそうなその顔は病気にも見える。
「いや俺ではないぞ」
直接手を下しのは一馬ではないが同心の伊藤伝八に殺すように頼まれていた。だから一馬が殺したでも間違っていない。それが判るので、煮え切らない態度になる。
「嘘だ、お前が殺したんだ」
夜鷹はゴザの中から脇差しを取り出して抜いた。どこから調達したのか判らないが、錆がある刀は捨てられたものか……
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