SS 約束【織姫妖怪】#毎週ショートショートnoteの応募用
暗いお堂の中はひんやりと冷えている。天井には星の配置が描かれているが黒ずんでいてよくわからない。中央に天の川と両脇に彦星と織姫が描かれていた。
「江戸時代くらいですか」
「それより少し前です」
夏の課題で近隣の寺院でレポートを書く事にした。男女の学生は暗さに眼がなれると埃だらけの床板や雑然と置かれた木の箱が散乱している部屋を見回す。
「この地域は織姫伝説があるんです」
天井を指さして男を見る。男は不安げに眼を泳がせる。
「どんな伝説なんです?」
「禁忌の恋物語です、身分が違う男女が愛し合い、地頭が許さなかった。男は箱につめられて川に流されました」
「それは、ひどい……話です」
「娘は嘆き悲しむと山の龍神に頼み、自分の身を捧げると村を滅ぼしました」
「それが織姫妖怪の伝説ですか」
「男女の恋仲を裂いて、のうのうと生きる地頭が許せない」
「……」
「身分で愛し合う事ができない理不尽さ」
「昔はそうでしょうね」
「引き裂かれるつらさを理解できない」
「どうしたんです?」
ふと高揚した気分が消える。
「なんでもないです。写真を撮りましょう」
「レポートを作らないと……」
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「下流で男が木の箱につめられて死んでいました」
「学生ですか……」
「女性の方は……むごい死に方です、猟奇殺人と思います」
「現場はどこですか?」
「禁忌のお堂だそうです、男女が一緒に入ると災厄が起きると言われています」
龍は今でも約束を守っている。イケニエの娘が来れば村を国を世界を滅ぼす……