落語 菊酒 【#秋】ボケ学会参加作品
九月は菊の節句があります。不老長寿を願って菊酒を飲みました。
「八さん、菊酒を飲もうぜ」
「菊も酒もねええよ」
長屋で寝てる熊さんは、今日も仕事にありつけません。酒屋にたまってるツケで気軽に飲めない。
「いや井戸掃除の仕事が来たんだ」
「なんだって、よしおれも手伝う」
喜びいさんでやってくると、武家屋敷のあとらしいが、草がぼうぼうで荒れ放題だ。
「ここを掃除してくれってさ」
「やけに陰気だな」
井戸のまわりの草をむしってると女の声が聞こえる。
「一枚……二枚……」
「だれだ」
「井戸の中で聞こえるぞ」
熊さんと八さんが井戸の中を見ると、お武家のお女中さんが座って皿を数えている。
「おい、こんなところで何している」
「皿を数えてます」
「なんだい、皿でも落としたいのかい」
「私が割ったと疑われてます」
「それはひどいな、どれ俺が数えてやる」
八さんがお女中さんから皿を受け取ると、九枚ある。
「九枚だな」
「一枚足りない……」
「九は良い数字なんだぞ?」
「え? そうなんですか?」
奇数は割り切れないので「余りが出る(余裕がある)」数なので、喜ばれていました。
「縁起がいいな、九枚でいいよ」
「九枚、縁起がいいぞ」
八さんと熊さんが手を叩いてはしゃいでいると、お女中さんが涙を流しながらすっと消えた。
「え? まさか幽霊?」
「ここは、皿屋敷じゃ……」
あわてて逃げ帰ったが、長屋に皿まで持ってきた。
「おい、この皿どうすんだよ」
「長屋の井戸にいれておけば、お菊さんが毎夜でてくる」
「怖いだろうが」
「いや、菊が入っているので百薬の長になる」
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