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SS 鏡を舐めるとどんな味がするか、知ってますか。#ストーリーの種

 私は鏡の部屋に座っている。どこを見ても私が私を見る。視線が会うとあわてて顔をそむけた、私の顔は醜い。天井を見ても床を見ても鏡、自分の醜さを認識する。私は目をつむる。

「それがあなたの夢ですか? 」
 お医者さんは私の話を聞くと、にこやかに笑う。私は彼の顔を見られない、自分の醜悪な顔を見られたくない。

「あなたはかわいいですよ、単に理想が高いのでしょう。気にしないように」
 当たり前のようなアドバイスを貰うと薬の処方箋しょほうせんを持って薬局に向かう。毒にも薬にもならない時間を消費している感じが強い。私は醜形恐怖症と診断されている、醜い自分を見られたくないから引きこもる。

 笑われているわけでもない、傷づけられる行為もされていない、純粋に自分の気持ちだけの問題。醜い私を見られたくない。

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「薬をもらった? 」
「ええ、あまり効かないみたい」
 彼氏は私を愛してくれるが、私は彼を見ない。私は目を伏せるか目をつむる。そんな状態でも彼は私を見捨てなかった。

 夜になると夢を見る、また鏡の部屋だ。顔が大きく傷ついている、醜い私が笑っている。

「なぜ目を背けるの? 醜い自分を肯定して」
 私は鏡を凝視する、醜く傷ついた私は幸せそうに見えた。私は床の鏡に顔を近づけるとゆっくりとキスをする。舌を出して私は私に愛の証をたてる、鏡を舐めるとどんな味がするか、知ってますか。とても甘いの、とてもとても甘い。私は私が好き。

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 今は病室の中だ、私は朝起きると鏡を割り自分の顔に傷をつけた、何針も縫う傷は醜い。私はそれを鏡で確認をすると理解できた。私は人から顔で愛されたくない、顔で愛されるなんて………私に失礼でしかない。

 退院をすると一緒に居た彼とは別れる。私の狂気に恐怖を感じたらしい、どうせ醜いから別れたと思う、所詮は彼も同じだ。顔で人を選ぶ男だ。

 今は私は幸せ、他人は素顔の私に驚くが、私は醜い自分が好き。


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