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かなえの呪い(06/15)【窓辺の少女_かなえの消える日】

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あらすじ
 碇浜いかりはまかなえが消えた。同時に世界で異変が始まる。玲子は神社にいる巫女を訪ねると虎丸和尚と同じ事を言う。世界の滅びを巫女の美成みなりが祈祷で止めるという。玲子は世界の急変に頭が回らない、そんな時に武雄の母親、天之宮春子あまのみやはるこから子供を作ってくれと頼まれた。

「武雄の血を残す意味はある、この子は優秀。残せる可能性があるなら、それを望むだけ」
 天之宮春子あまのみやはるこは、今は初めの印象よりも弱い女性に見える。私は理屈を考える前に、子供を望むのだろうか?と考えた。何か抵抗があるのが本心だ。どこかで引っかかる。

「私が承知したら何をすればいいのです?」
 かまととだ。する事は決まっているが、その後が判らない。隕石が落ちるなら子供を産む前に地表が荒れる。どう考えても生き残れない。もし祈祷で隕石が止まるなら、急いで子供を作る理由が無い。

「霊能者同士なら力で生き残れる、母になればもっと強くなる」
 よく判らない、春子は子供を作る事で生き残れる確率を上げたいらしい。私は……保留した。

「申し訳ありません、私は……」
 武雄が私の腕をつかむ。
「判りました、俺が玲子を説得します」
 腕を持ち上げられる。私は自然に立ち上がった。春子はるこに、お辞儀すると私達は部屋を出る。

「いきなり何よ」
 私は少し怒っていた。俺が説得?プロポーズでもするの?武雄が説得すれば私の体を…私は思考を停止する。恥ずかしい。顔が真っ赤だ。うつむく私に武雄が答える。

「母は隕石を止めるために命を削る」
 武雄の顔を見る。無表情なのに悲しい表情。彼の決意は固まっている。
「さっきの話は忘れてくれ、母は少しでも希望を持ちたい。こんな状況で子供を作るのは無理だ」
 武雄は母の春子が想像以上に動揺していると言う。なんでも自分の力で制御できた。しかし今回だけは無理だ。その焦燥感で血を絶やさないように、私を使う。

「使うって道具みたいね」
 私は半笑いになる。まぁでも家を守るというのは、そんな事なのだろう。血を守る。家を守る。みんなを守る……
「隕石は止められる?」

 武雄は黙って首を横にふる。武雄と一緒に家の玄関を抜けると、男子が居る。急いで駆け寄る。同級生だ。大神十郎おおかみじゅうろうが座り込んでいる。

八重やえが、連れて行かれた……」
 顔に殴られたような傷がある。彼をここまで追い詰める人間が居る?犬神を使役できる彼は霊能力者としてトップクラスだ。

 傭兵なのかごつい外人がレストランで働いていた八重やえを連れ去った。同じくレストランで八重を守っていた十郎は彼らを見くびったのか、手も足も出ない。

 私は不思議に思えた。
「外人?」
「米国人だと思う、一発でのされたよ」

 彼の手当をしながら話を聞くと、外人から重要な役割で東京湾に連れて行くと聞いた。彼らは無線で通話しながら、同級生の八重やえを連れ去る。

「大変……助けにいかないと」
「嫌な予感がする、うつろに何か入れたいのか」
 武雄は考える。十郎は立ち上がろうとしたが力は出ない。私は十郎に休んでてもらい、妹の愛優あゆの力を借りようと考えた。妹は式神が使える。犬神と八夜狐やよきつねは強大な力を持つ。私は妹を連れてくる約束して家に戻る。

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愛優あゆ、居る?」
 家に戻るとキッチンに行く、いつもそこでテレビを見ている。妹がテレビの隕石のニュースを見ていた。隕石は軌道が修正されて地球の近くを通る事を伝えている。大気圏に少し影響が出る。しかし安全だ、何も心配はいらない。だけど、私はもう知っている。地球を破滅させる隕石。

「玲子」
 静かな声で、私の名前を呼ぶ。碇浜いかりはまかなえが私を見ている。私は凍り付く。妹を見るがこちらを向かない。呪縛されていた。

「なかなか良い家ね、ここで幸せに暮らしているのね?」
 うっすらと笑う彼女は悪意を持つ表情を見せた。私を憎んでいる。私は深呼吸する。

「何をすればいいの?」
「話が早いわね、あなたは何もしなくていいわ、使い道がないもの」
 かなえは私を怒らせようとしている?意図が判らない。彼女から見れば幸福な私が苦しめば満足する?彼女をどう納得させられるか、考えた。

「わ、私の命を差し出す、妹は…」
「馬鹿じゃないの!」
 かなえは私に怒りの目を向ける。歩み寄ると私の腕をつかむ。
「あんたをすぐにでも呪縛できるわ、今は私の力は強い、玲子……」
 かなえのゆらゆらと光る目は潤んでいる。泣いているようにも見える。私も涙を流していた。ぽろぽろと涙が落ちる。

「すぐ泣く、本当に泣き虫ね。私は泣かない。やり遂げるわ」
 私に背中を見せる、かなえも涙を流している。

「妹はあずかる、あなたは無力よ、何もしないで」
「にゃーん」

 いきなりネコの声がすると、愛優あゆの膝の上に飛び乗った。蛇ネコだ。父親には内緒で飼育している。首が抜ける妖怪猫。かなえを見ると威嚇を始めた。

「シャー」
 かなえも私も反射的に体がびくっとする。本能だ。猫の威嚇は本当に怖い。

「おねえちゃん!」
 愛優あゆが叫ぶと同時に犬神と八夜狐やよきつねが現出する。愛優あゆが使える使役獣。かなえはすぐに走り出した。

「おい、あのねえちゃんを殺せばいいのか?」
「蛇の因縁が使える童か、かなり危険な事をしておるぞ」
 犬神と八夜狐やよきつねは、命令を待っている。愛優あゆは私の顔を見る。私は……かなえを助けたかった。

続く


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