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SS コミュ障もここまで来るとプロだ。 #ストーリーの種

俺は強面(こわもて)だ。顔がとにかく怖いのだ。体も大きいし筋肉もついている。別に俺が鍛錬しているわけでもない。親からの遺伝になる。だから子供の頃から怖がられていた。

「明君は、無口だよね」
幼なじみの希実子(きみこ)は気さくに声をかける。俺は黙ってうなずく。別に
「そうだね」
とか
「話すのが苦手で」
とか言えばいいのにそれが出来ない。声が出ない。いや声を出そうとして変な事を言うのが怖いのかもしれない。返事しない。だから怒っていると勘違いをされる時がある。
「明君は何を考えているか判らない」
「明君は私が嫌いなのかも」
「明君は単に他人に興味が無いだけかも」
同級生には大体は誤解をされている。いや誤解は語弊がある。自分から何も説明をしていないのに、誤解も糞も無い。ただ意思疎通はできる。質問すれば同意と拒否はジェスチャーで判るし、国語の朗読も平気だ。話す内容が決まっている場合は問題が無い。音楽の授業も問題ないし。体育の時もカケ声とか大声でできる。ただ会話が出来ない。

コミュ障もここまで来るとプロだ。話をしなくても生活できる。なにしろ希実子(きみこ)が周囲に通訳してくれるのだ。彼女は俺が話をしなくても仕草だけで意図を理解してくれた。

男子は俺を恐れている、たまに俺に絡んでくる奴も居るが肩をつかむと逃げていく。握力がかなり強い。貨幣を指で曲げられる。ただし真似してはいけない、貨幣損傷等取締法があるからだ。俺は子供の頃にいじってると曲がったのであわてて戻した。

学校を卒業して大学へ進み、俺は官僚を目指した。そばにはいつも希実子(きみこ)が居る。公務員試験に受かると俺は彼女に会いたい事をメールで伝える。夜の公園に来た希実子(きみこ)は、俺を見ると
「結婚しましょう」
とプロポーズを受け入れてくれた。でも俺は何一つも言って無いのだ。

俺は有能なのだろうか?仕事は真面目にしたが存在感だけで出世をする。なにしろ俺が黙って書類を提出したり企画をすると通ってしまう。俺の見た目で誰も拒否も反論もしない。

政治家との付き合いも増えると彼らにも認められた。そして俺は政治家になれた。今は寡黙な首相として日本国の総理大臣になる。野党は俺の顔や仕草だけで、質問もそこそこにして質疑応答が終わる。もちろん俺は日本のために不正を許すつもりもない、後ろめたい奴が居れば俺が睨めば白状した。

妻は
「コミュ障でも政治家になれるのね」
と笑っている。
「あなたはもしかしたら閻魔様みたいな存在なのかも?」
俺の顎のヒゲを触りながら優しく抱きしめてくれた。

終わり

政治家



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