本当の人生【#風車】 #シロクマ文芸部
風車が回る、子供が手にもってくるくると回しながら道を走っている。
(俺もあんな風に遊んだ……)
公園のベンチでぼんやりと座る男は、家を追い出されたばかりで途方にくれていた。
(仕事もない……家賃も払えない……)
子供の頃を思いだす、なんにでもなれた。パイロットにも野球選手にも、スーパーヒーローにもなれると思っていた。
(無駄な人生……、もっと真面目に仕事すれば……)
ふと気がつくと、小学生くらいの少女が風車を持って立っている。
「人生をやりなおしたい?」
「ああ? そうだな、やりなおせれば……」
「風車をあげる」
くるくる回る風車を手に取る。赤い風車がゆっくりと回ると……
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気がつくと公園で風車を持ってベンチに座っている。自分は子供に戻っている、急いで家に帰ろう、夕飯の時間だ。それから学校で勉強して一流企業に入り、上司から縁談をもらって一戸建ての家を買い、子供を育てて定年退職する。
「人生なんて、すぐに終わる……」
むなしさを感じながら公園のベンチに座っていると、また少女が立っている。そうだ、この少女が俺の時間を戻した。
「風車をくれ!」
「どうぞ」
何回も何十回も繰り返す。でも結果は同じだ。普通の人生を繰り返すだけ。
「風車が欲しい?」
「ああ、それをくれ」
憔悴した男は次の人生を自分のしたいように生きる。今までの膨大な経験を利用して金を稼いで人を奴隷のように扱う。その享楽は最後に殺人で幕を閉じる。
(これが俺だ、俺が生きる理由だ!)
もちろん逮捕される。男は余裕で次も楽しみたいと考えた。でも少女はどこにもいない。刑務所からは出られない。あの公園の少女から風車をもらわないと……
絞首台で男は叫ぶ、外に出してくれ、公園で待ってる少女がいる! 彼の手に風車は無い。
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