SF いつもの朝【#帰りたい場所】#青ブラ文学部(550文字くらい)
低くうなる音が聞こえる。ヴーン――ヴーン――ンンン
音が途切れると目覚ましの音がした。
「起きなくちゃ……」
学校に遅れると思って上半身を起こすが、今日は休日だ。いつもの癖で目覚ましのスイッチをONにしていた。キッチンに降りると父と母が深刻そうな顔をしている。
「もうダメなのか……」
「別れましょう」
離婚の話を延々としている、毎日なので飽きないのかな? と思うがいつも母が折れていた。でも今日は違う。母がすっと椅子から立ち上がり父の後ろに回ると手に持っていた小さなダンベルを父の後頭部に叩きつけた。
重さは三キロくらいで、毎日使っている鉄の塊。父は驚きと悲しみと恐怖と……憤怒で、母の首をしめる。母は無言で父の顔を殴りつけた。
数分もしないで母を窒息させた父は、私の顔を見る。
「また、頼むよ」
うなずくと父が倒れる。死ぬのは運命だ。
「またスイッチを押すね……」
地下室に降りると大きな装置が、低くうなっている。数時間だけ戻れる時間移動装置。私が操作をするので、私にしか記憶は残らない。
「帰りたい場所か……」
父は母と過ごす毎日を楽しみにしていた、何回も戻り幸せを味わう。でも記憶は知らないうちに蓄積される。母はいつしか父を憎んだ。
スイッチを入れると私は眠りの時間に戻る。夢を見るように何千回も繰り返す……
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