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Photo by
aya_ashiato
SS 鶴【雪のひとひら】 青ブラ文学部参加作品(760文字くらい)
かじかんだ手に、雪のひとひらが触れるとゆっくりと消えた。手のあたたかさは失われて何も感じない。
「つる、なにしてる。早く家に入れ」
山奥の藁葺き屋根は黒く大きく重く見える。土壁がくずれワラがはみでているのは、今年の飢饉で食べるものがなくて土粥にして食べたからだ。
「外に出ても、なんもないぞ」
「うん」
土間にあがるとぺったりと座りうずくまる。空腹を通り越して今は食べものを探す気力もない。父と母と兄が自分を見ているのが判る。きっと私の番なのだろう。
「つる、はら減ったか」
「うん」
「もう減らなくてもよくなる」
「うん」
ドンドンドン、戸が叩かれた。
「むかえにきた」
「おまちしておりました」
鎧武者が土間の、つるを見て納得したようにうなずく。
「ではもらいうける」
「よろしくお願いします」
それからのつるは、大きな真っ白なお城で、きれいな着物とおいしいご飯を食べて暮らす毎日で、なにが起きたのか、まるで判らない。ただ自分とそっくりの女の子が居た。この城のお姫様だ。
「お前は人質として敵将に引き渡される、それが運命と思え」
幼いつるは、代理の人質役だが本人は気にしていない。今の暮らしでもう死んでも良いと思っていた。だが争いは終わる。敵側の殿様が隣国に滅ぼされたからだ。つるは用済みで里に戻された。
「おとうさん、おかあさん、おにいちゃん、ただいま」
褒美を持って里に戻ると、そこには誰もいない。家は荒れ果て、ナベには骨だけが残っていた。
戻る家はもうない。
つるは家の外に出て空を見上げる、雪のひとひらが肌につくと、すっと水になり流れ落ちる。その暖かい手を広げて空を飛んだ。きっとどこかに私を愛してくれる人が居ると信じて、鶴は冬の空を舞い続けた。