ご免侍 二章 月と蝙蝠(二十三話/三十話)
あらすじ
銀色の蝙蝠が江戸の町にあらわれる。岡っ引き達が襲われていた。芸者のお月が一馬に傷を負わせる。
「平助はいるか」
「今日も外に出てませんよ」
木戸番の男に話を聞いて通してもらう。狭い長屋を歩きながら、子供や女房達の声でやかましさが楽しい。一馬は、にぎやかな場所が好きだ。
「平助の家はわかるか」
「なんだい良い男だね、そこだよそこ、一番はずれ」
井戸端で茶碗を洗っている女房たちに平助の家をたずねる。好奇心の目で見られながら、塗屋造の粗末な長屋だ、引き戸もボロだ。
「おい、平助いるか、平助」
「はい、おりますよ、どなたです」
中年太りで腹がふくれた狸顔の男が戸を開ける。
「一馬様、これはこれは」
平身低頭しながら、平助は緊張していた。
「これをやるから、仕事をしてくれ」
「え?」
手渡されたのは黒光りする十手だ。
「あっしにですか」
「そうだ人手が足りない」
「高価そうですな」
「やらんぞ貸すだけだ」
下手すると質に入れそうだが、一馬が自分用に作らせた十手を渡す。重くずっしりくる十手を持ちながら、妙に自信をもてるのか、平助の顔が岡っ引きの顔に戻る。
「俺をお前が襲われた場所に連れて行ってくれ」
「ようござんすよ、支度します」
部屋に戻ると狭い四畳半で柳行李を開けて、捕り手縄を引っ張りだして用意している。
(有能だからな、このまま辞められると困る……)
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