見出し画像

SS ハナ大増殖 #爪毛の挑戦状

 金木犀きんもくせいの香りがする、甘いような濃厚な臭いはむせる。あまりに強いので口で息をする。
「なんだ? 芳香剤ほうこうざいでもこぼしたのか? 」

 ベッドから起き上がり窓を見ると外がオレンジ色だ。窓に近寄ると臭いがきつくなる、外がハナで埋まっている。

 テレビをつけるとニュースキャスターが「ハナ大増殖」を連呼していた。地球温暖化の影響を報じていたが、どうやら大陸側で実験を失敗したらしい。

金木犀きんもくせいにクマムシの遺伝子? 」

 人間の細胞にクマムシの遺伝子を入れて、耐久性を確かめられたと怪しげなニュースが流れていた。なんでも実験したくなったのだろう、植物で試すと研究室どころか、中国全土に膨大な数の金木犀きんもくせいが繁殖して埋め尽くした。

 炎で燃やしてもすぐに別の場所から増え続ける、核兵器を利用してもクマムシの遺伝子のせいか、影響が少ない。ひたすら刈り取るしかないが、人間は花粉を吸い込んで倒れて死んだ。金木犀きんもくせいの花粉にもクマムシの遺伝子が取り込まれていた。

 鼻から入ると人の体内で増殖する。もちろん酸素不足で人間は死んでしまう。世界の終わりだ。

「なんか美しいな」
 穏やかな気持ちになるのは、金木犀きんもくせいの香りのせいだろうか? 濃厚な果実のような香りを吸いながら、血中酸素濃度が下がる。俺は眠くなると、窓に近づいてベランダに出た。橙色の花が咲き乱れる、屋根もビル全てが金木犀きんもくせいだ、ベランダで俺は座り込むと昏睡こんすいする。確かクマムシも危険な状態の時は、昏睡こんすいして体を守るんじゃ………

 オレンジ色の花びらが男性の体に降り積もる。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?