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SS 宝玉【うんこかき】 #爪毛の挑戦状

「松さん、またお願いね」
「あいよ」

 威勢いせいのいい声でかわやにはいり、長いひしゃくで中身をすくいとっておけに入れる。大事な商品だ。肥桶こえおけをかついで百姓に売れば金になる。松にとっては、うんこは宝と同じだ。うんこかきは天職に思える。

(まぁくさいから嫌われるけどな……)

 汚れた格好で銭湯にもいけない、匂いで敬遠される。手を洗っても臭い。うんこが金になることは判っても、この職業では嫁をもらう事もできない。

 そんな時に、かわやの中で、七色の玉をみつけた。

(これは、お宝か……)

 便の中に大事なモノを落としても拾う奴はいない。みんなあきらめる。だからたまに財布とか落ちている。しかし、こんな高価なものは初めてだ。

(これで、うんこかきから大金持ちに)

 家に戻ると水で洗って藁束わらたばを使って磨きあげた。七色に光る石は、かぐや姫の話に出てくる宝玉にも感じる。どこに売ろうかと思案の末に、大家に聞く事にする。

「大家さん」
「松か、臭いのぉ、そこから上がってくるなよ」
「光る石は、どこで売れますか」
「なんだって? 珍しい石でもみつけたか、見せてみろ」

 この大家さんは石好きで名石を集めていた。松さんから玉を渡されると黙り込む。

「うーん、まぁ珍しいな、この光っているのがめずらしい」
「そうでしょう、いくらになりそうですか」
「あー、そうだな、五百文くらいか」
「そんな値段ですか」
「そんなもんだ、光っていても石だ。値段は高くない」
「大家さんの集めている石は高いでしょ」
「当たり前だ、逸品ぞろいだ、だがな、これはまぁ品がない」
「品はありませんか」
「ないな、なんというか光りすぎだ」
「光りすぎだと下品ですか」

 難癖つけているが大家は欲しくてたまらない。そこを隠して少しだけ値段をつりあげた。

「松は店子だ、親子も同然だから少しだけ高くしてやろう」

 銭箱から一朱金を取り出すと紙につつんで松に渡した。松は喜んで帰っていく。

「あーいったか、こんな珍しモノなら数百両で売れるぞ」

 さっそく知り合いの石好きの侍に見せると、これは宝玉で天下一の品だと、お殿様に献上する事にした。お殿様の前で、大家と侍が平伏している。

「これが、光の玉でございます」
「なるほど、光るな、めずらしい玉じゃ」
「かぐや姫が探していた宝玉かもしれません」
「それは珍品じゃな」

 殿様が玉をめずらしそうに扇子せんすでポンポンと叩くと、パカッと割れる。凄まじい匂いが充満すると、全員の鼻がもげるような悪臭で満たされる。

「なんじゃこの臭い玉は」

 松が見つけたモノは糞石ふんせきだった。糞が長い間に底にたまり続けて硬くなると表面は尿の成分で七色に輝く石になる。あわてて大家が弁解をする。

「これは古すぎました、中身が腐りました」
「ならば新しいものを持ってまいれ」

 殿様から怒られた大家さんは、松さんを見つけると、どこで採取したのか必死の形相で聞く。

「便所です」
「わしに便所から拾ったものを売ったのか」
「へい、便所は宝の山ですから」

♪お囃子

#爪毛の挑戦状
#小説
#うんこかき


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