ご免侍 八章 海賊の娘(十七話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をした。母方の祖父の鬼山貞一と城を目指す船旅にでる。一馬が立ち寄った島は、水軍が管理していた。海賊の娘、村上栄は協力する代わりに一馬との婚姻を望んだ。海賊の港に鉄甲船が突入する。散華衆の四鬼、大瀑水竜は一馬に倒される。
十七
「大丈夫だ、海賊の船を集めてくれ」
一馬が叫ぶと海賊の娘の村上栄が、帆に何やら布をくくりつけると、滑車でもついているのか、縄を手で引っ張って小さな旗印を帆桁にかかげた。
パタパタと旗印が出ると、周囲の海賊の船が一斉に突進してきた。元から船を襲う連中だ、旗印だけで状況を把握できる。恐ろしい早さで船が集まると、鍵縄が甲板のへりに投げつけられる。たちまちのうちに二十名ばかりの屈強な男達が甲板を占領した。
海賊の長、村上主水が、一馬の肩を叩く。
「お見事ですな、これが敵の首領ですか」
「いや……それは判らないが……」
大瀑水竜の死体は、海賊達ですら鼻白んで遠巻きに見ている。
甲板に一人の青年が顔を出す、さきほどの露命月華と話していた若い男だ。
「俺の名は、兵次郎」
短い髪で赤黒く日焼けした顔は海の男らしく見える。背丈は一馬と変わらないし筋肉の量もそれなりある。
「俺は藤原一馬だ」
「みなの命を助けると約束してくれ」
「わかった、決して粗末には扱わない」
村上主水が手下の海賊達に命令すると即座に、船を動かすための櫓を動かす場所まで降りていく。鉄甲船にも帆はあるので、風を受ければ普通に操作できる。舵を使って動かしはじめた。
一馬も様子を見ようと甲板の下に降りると、散華衆の若い男達は、海賊と一緒になって櫓をこいでいた。ぐんぐんと進む鉄甲船は夕方には、海賊達の浜に到着する。
「今日は浜辺で寝てもらおうか」
村上主水がテキパキと命令しながら、破壊された浜に、散華衆を集めて飯を炊かせたり、寝るところを用意させたりでいそがしげだ。
海賊の娘の村上栄が近寄るとそっと耳打ちする。
「ここは私たちでやります、屋敷に戻ってください」
「鉄甲船は、海賊達が見張るのか」
「寝ずの番と、甲板に見張りをつけときます」
「くれぐれも殺さないでくれ、彼らは……」
「判ってますよ」