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ご免侍 一章 赤地蔵(三十話/三十話)
あらすじ 一馬は、侍と医者の暗殺を頼まれる。謎の男達に襲われていた娘を助けた。その娘は、遠くの西の城に行きたがっている。
同心の伊藤伝八が番屋で茶を飲んでいる。一馬が顔を出すと薄い目をあけて声をかけた。
「一件落着か」
「まぁそうだな、薬の件は終わりだ」
「夜鷹の死体が増えていた。調べると明庵が薬を処方していたんだ……」
それだけ話すとまた目をつむる。
捕まえて責めれば口を割るだろうが伊藤伝八は無駄と考えた。素早く殺した方が慈悲と思ったのかもしれない。そして一馬に明庵への殺しを依頼した。伊藤伝八も悪を許せないたちで、非合法でも罪をとめさせたかった。一馬は手を上げて番屋を出る。
「じゃあ、またな」
外で待っていた水野琴音を連れて、投げ込み寺に行く。赤地蔵に供養のお菓子をお供えしたい、と言い出したのは琴音だった。
「明庵さんは、夜鷹さんを助けたかっただけです……」
「……だろうな」
「おそめさんは、お仙さんのお店で働くんですね」
「まぁな」
「とても美しい方ですね」
「おそめか……確かにきれいだったな」
「肌が透き通るように白かったです」
琴音の話はやむことがない。まるで長年一緒にいる兄妹のような錯覚もある。すっかり元気になった琴音と、いつ旅に出かけられるか案じていた。隠密頭から唐突に仕掛けを依頼される時もある。
「赤地蔵様」
投げ込み寺のうらびれた一角は卒塔婆が乱立している、そこに石の地蔵が真っ赤な前掛けをして立っていた。地蔵に手を合わせる琴音の横顔を見ながら、いつしか一馬も手を合わせる。
二章に続く
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