ご免侍 八章 海賊の娘(三話/二十五話)
設定 第一章 第二章 第三章 第四章 第五章 第六章 第七章 第八章
前話 次話
あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をした。母方の祖父の鬼山貞一と城を目指す船旅にでる。
三
「おい、孫をいじめるな」
祖父の鬼山貞一が、笑いながら手招きをしている。あわててその場を後にするが、脇腹の激痛がやばい。もしかして骨が折れたか?
「女にもててうらやましいの」
「うらやましくないです、痛い……」
「もし折れていても自然治癒しかないぞ、板でもまいとけ」
笑いながら漁村を歩いて行くと、山のふもとに大きな屋敷が見える。かなり大きな屋敷は大名屋敷のように立派に感じた。
「村上水軍の根城じゃ……」
「海賊ですか」
「ああ、わしの親戚でもある」
「……」
大きな門を通り、立派な玄関で待っていると、年の頃は十六くらいか美しい着物姿の精悍な顔の娘が出てきて板の間で座っておじぎをした。
「村上栄と申します」
「これはご丁寧に、わたしは刀鍛治の鬼山貞一」
祖父とともに頭を下げる。
「横におるのが、桜の子供、わたしの孫の藤原一馬」
「よろしくお願いします」
また頭を下げて姿勢を正すと、村上栄が値踏みをするように見つめている。
「お強いのですか」
「私は……強くはありません」
「弱いのですか」
立て続けに質問をされると少しだけむっとする。
「それなりに剣は使えます」
「判りました、お手合わせをお願いします」
すっと立つと用意したかのように、下働きの女が大きな槍をもってくる。その先は三つ叉になっていた。そのまま無言で庭先に出ると槍を立てて、こちらを見ている。
「貞一殿……、何がはじまってるのですか」
「わからんが相手してやれ」
興味なさそうに耳の穴をほじっている鬼山貞一に、あきれながらも流れでしかたなしに村上栄と対峙する。
「なにをすればよろしいですか」
「それでは、殺し合いで」
槍がすさまじい勢いでくりだされた。