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uranus_xii_jp
SS 夜の蜘蛛【命乞いする蜘蛛】 #毎週ショートショートnoteの応募用(500文字くらい)
前足をスリスリ、蜘蛛がじっと男の顔を見ている。
「命乞いする蜘蛛か……」
前足をこするのは蜘蛛の習性だ。夜の蜘蛛は縁起が悪いから、よく殺された。男は叩きつぶす手を止める。
「どうぞ、お許しください」
庄屋の旦那が、手を前に出して命乞いする。
「顔を見られたから……」
背中から横腹を突き刺した。男は夜盗だ、夜の蜘蛛は泥棒に入られる縁起が悪い生き物。
(確かに、この家じゃ縁起が悪いな……)
畜生働きをする夜盗は、庄屋から金を盗んで逃げ出すと、どこかで呼子笛が聞こえる。銭箱をかかえたままでは逃げられない。道ばたに捨てる。
(ただ殺しただけ……)
朝まで農家の納屋で隠れていると、つっーっと蜘蛛が頭に降りてきた。
「朝蜘蛛は、縁起がいいからな」
男はパンっと手を叩いて蜘蛛をつぶす。とたんに納屋の戸が開くと目明かしが怒鳴る。
「御用だ!神妙にしろ」
「ああ、わかってるよ縁起を殺したからな」