SS 控え室の男【バンドを組む残像】#毎週ショートショートnoteの応募用
「バンドを組む残像だろ、知ってるよ……」
彼はぽつりぽつりと昔話を語る。その地下の事務所は、ライブハウスのバンドメンバーの控え室だった。
「なによくある怪談話だよ」
バンドリーダがわがままで、メンバーを馬鹿にしていた。もちろん彼の実力はプロで通用するレベルで、人気があるのは彼一人だ。
「バンドを解散する事にした」
「え?」
「なんでだよ」
長髪をかきあげながらリーダが薄ら笑いを浮かべて、馬鹿にしたように他のメンバーを笑う。
「お前ら実力なさすぎ、俺は新しいメンバーでプロになるんだよ!!」
リーダを残してメンバーが退出する。彼らも判っている、リーダーの魅力だけのバンドだと知っている。この地下室で、リーダは高笑いをいつまでも続けた。
アハハハハッアハハハハッアハハハハッ
「それでプロになれたか? なれなかったよ」
リーダのわがままを聞いて最高の曲を作り演奏できたのは、馬鹿にされたメンバーの実力だった。彼から見れば残像だったメンバーが彼を支えていた。彼は失意で首をつったんだ、この控え室で……
パチンとスイッチが点灯すると、誰も居ない部屋に照明がつく。アルバイトの二人の女の子が部屋を見回す。
「誰か、いた?」
「ここは幽霊でるって、首をつったリーダの……」