SS 損の一部、真イカ#毎週ショートショートnoteの応募用
「イカ喰いねぇ、イカ喰いねぇ 」
「イカとか気味わるいよ」
パンパンと手を叩く棒手振が長屋の住人を集めている。見れば白くみずみずしいイカが桶の中で一匹だけ売れ残ってた。長屋の女将さん、イカを見ながら顔をそむけている。見かねた長屋の八さんが、買い取り刺身にでもしようかと部屋に戻ると、助けを呼ぶ娘の声がする。
「堪忍してください、助けてください」
イカが声をあげていた。八さんがイカを皿にのせて箱膳の上に置くと、むっくりと起き上がる。
「私は竜宮城に仕える侍女、助けてくれたらお礼をします」
八さん喜んでイカを海に戻す事に決めるとイカが白く美しい少女になり、八さんと安房国まで旅して海に到着する。少女は嬉しそうに八さんに頭を下げた。
「ここまでくれば帰れます」
「それでお礼は? 」
イカ娘は、砂浜で着物を脱いで裸身の体を差し出しすと八さんがたまらず抱きつくが、腕がイカに変わると吸盤にある鋭いトゲで体を締め付ける。
「ぎゃああああああ」
真イカの吸盤はタコとは異なり歯がついている、それで体をかみつかれるから、たまらない。娘は凶悪な顔に変わると顔からするどいオウムのようなくちばしが突出して八さんの腕にかみついた。
「うーまずい、風呂に入ってないだろ」
イカよりすっぱいアンモニア臭で娘は海に逃げ帰った。八さん、なんとか助かって長屋に戻り熊さんに報告すると
「死ねば死に損、生くれば生き得」
「女にほいほいついていくは損の一部、真イカはこりごり」
笑いながら安酒をなめて酢蛸を食べた。