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ご免侍 一章 赤地蔵(二十二話/三十話)
あらすじ 一馬は、侍と医者の暗殺を頼まれる。謎の男達に襲われていた娘を助けた。
「明庵先生の事ですか……」
土手沿いにある長屋は古く、くたびれている。老人が多いのか活気がない、琴音《ことね》と一緒に医者の住んでいた場所をたずねる。木戸番の老人が不審そうに一馬を見た。
「同心の伊藤伝八から頼まれている」
嘘ではないが名前を出していいのか悩むが仕方が無い。
「お調べならなんでも聞いてください」
「夜鷹に薬を渡していたと聞いたが」
「その件ですか、本当ですよ。薬の効き目を知りたいとか言ってましたな」
「薬ならば効くのが普通だと思うが」
「南蛮渡来の薬と言ってましたよ、どこかのお武家様からもらっていたようです」
木戸番は、長屋の出入りを見張る役割がある。不審な人間ならば木戸を通せない。武家屋敷からの使いが頻繁に明庵と会っていた。
「どこの家だろうか……」
「小松家だと聞きましたよ」
木戸番に付け届けをしていた。出入りが多くても怪しまれないように懐柔している。
明庵には妻はなく、井戸端にいる女達に噂話を聞いても収穫がなかった。あきらめて長屋を出て、土手を歩きながら琴音と夏の夕暮れを楽しむ。
「南蛮の薬だと高価と思います……、そんな薬の効き目を確かめる……」
琴音《ことね》がうつむきながら一馬の脇を歩く。彼女は不思議な少女で凜とした雰囲気の時もあるが、こうして一緒に歩くとただの子供にも見える。
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