ご免侍 七章 鬼切り(九話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をした。祖父の藤原一龍斎は、一馬を刀鍛治の鬼山貞一に会わせる。貞一の娘が母親だった。そして母は殺されていた。鬼山貞一から、母は生け贄にされたことを知る。生け贄の場所は大烏城だった。
九
「怪我はありませんか」
雄呂血丸が走ってくる、腰には真新しい刀を差していた。
「金鬼に見つかった」
「それは……まずいですな」
「早く出立せねば……」
一馬は自分の言葉を頭の中で繰り返す、どこに行くのか……このまま進めば、琴音は確実に死ぬ。
「そうですな、旅立つべきでしょう」
「……ああ……」
琴音が雄呂血丸の刀を見つめている。
「この刀がめずらしいですかな」
「幅が広いですね」
雄呂血丸が、すらりと抜くと刀の幅が広い。中国の柳葉刀にも見える。少し離れた所に移動すると刀をふるって見せた。長い刀身と遠心力で、何でも斬れそうに見えた。
「重いですが、私はなれてます。使いやすいですぞ」
「とても強そうですよ」
琴音は、今は平静に見える。この少女の中では、運命を受け入れたと思うべきなのかもしれない。それでも一馬は迷う。
(助けられないのか……いや助けても別の誰かが……)
目の前の少女を助けるのはたやすいかもしれない。だがそれで終わるわけでもない。どれくらい長く続いているのかは判らない、それでも十年か二十年に一人は贄にされている。
(俺が止められるのか……)
一馬はなぜか力があふれてくるのを自覚する。俺もその神仏を見たい。贄を要求するようなモノなのかを確かめたい。一馬は、琴音の両腕をつかむと決意したように
「琴音、俺も行く、その場所で確かめる」
「……ありがとう、一緒に居られるだけでも幸せです」
琴音は笑っている、自分が死ぬまで笑って欲しいと心の底から願う自分がいる。
「旦那、敵は一人じゃないと思います」
「なんだと」
「もっと大きな奴が森の中に潜んでました」
山賊の権三郎は、凶暴な獣を見つけていた。