SF:オイラーの憂鬱 ケモナーワールド
「空飛びたいなぁ」
ケモナーワールドは、人間が獣のDNAを注入された特殊な世界だ
人間が生まれてから200万年もすると種として衰退が始まる
当時の研究者は、手当たり次第に動物の遺伝子を組込はじめた。
外界で生きていけるだけの強靱さと免疫を持たせるために
必要だったのだろう。
もうその頃には、野生動物は絶滅していてDNA標本しか無い。
生の人間は、外の世界では生きていけないほど弱くなっていた
無菌室の室内で、ほそぼそと生きるだけの存在になる
おかげで、人類は多様な種として平行進化を始める。
同じ動物同士で国を作り、神話を作り広がってゆく。
「オイラーなにしている、仕事を手伝え」
鳥族の自分は、申し訳程度に翼があるが飛べない。
村のみんなも大きな翼はない。
部屋から出ると、父親の仕事を手伝う。
畑で豆を栽培している、自分たちは菜食主義者で
肉は食べ無いが昆虫は食べる。
「父さんは空とか飛びたくないの?」
いつもの質問だ
「まだそんな事を言ってるのか、空飛んでどうする」
「せっかく鳥に産まれたのに、翼が無駄だからさ」
父さんは笑いながら
「鳥といっても、飛べない鳥は古代から居たぞ、モアとかな」
モアは、大きなダチョウみたい生き物で2メートルも
身長があったらしい。
仕事が終わると、いつもの小屋に行く。
今は、人間が古代に作ったという、グライダーを組み立てている
大きな布を使い、風に乗って空が飛べる。
金属部品や布の生地は、近くの機械化工場から貰える
ロボット達が24時間生産活動をしているため、部品を頼めば
作ってくれる
ただし、一日で供給される量は決まっているので無制限には
利用できない。
今は自分の割当量を消費している。
「それで飛ぶの?」
幼なじみのマルーが、見に来た。
「うん、やっぱり鳥だからね、飛びたいのさ」
「じゃあ出来たら教えてね」
ぶらぶらと小屋から出て行く、結婚するなら彼女と卵を
作る事になるのかな。
飛ぶ日を決めて村のみんなを集めた。マルーも来ている。
「これがイカロス号です」
みなが大きな車輪をつけた、グライダーを見ている。
父親が「これ重くないか?」とちょっと心配そうだ。
「平気だよ、空力学的に計算済みだからね」
乗り込むと、丘の上から勢いをつけて発進させた
動力は、僕の鳥力だ。鱗の生えた足は強靱ですさまじい勢いで
足漕ぎ式のプロペラを回す。
揚力が発生したのか、飛び上がる。
車輪を落として重量を減らすと空高く舞い上がった。
「成功だ、飛んだぞ」
いや飛びすぎている、ぐんぐん上昇をはじめて止まらない
気流の関係なのかもう地上の鳥たちは豆粒のように小さい。
「どこまで飛ぶのかな」
心配になりプロペラを止めても、変化しない。
「どうしよう降りられない」
両翼からミシミシと音がすると、グライダーは分解した。
投げ出された自分は空中をくるくる回る
「ぼく死ぬのかな」
と思ったら体が自然に開いた、大の字になると両手の翼で
空気を受ける。本能で空を飛んでいる。
「飛んでるけど、降りられるといいな」
気流が強いのか、ゆっくりと降りられた。
丘の上でぐるぐる旋回しながら、無事に足から降りると
父さんが走ってきて、頭を殴られた。
「もうグライダーは作るなよ」
マルーも近寄ると、「空を飛んでて面白かった?」
「今回は偶然が重なって助かったよ、でもまた飛びたいな」
父さんは嫌な顔をしてた。
正装
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?