ご免侍 十章 決戦の島(五話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬は、妹の琴音を助けるために鬼ヶ島を目指す。父と母は敵として一馬の前に立ちふさがる。
五
月華の目がうるむ。着物を脱ぐと半襦袢になる。腕が白く光って見えるのは夕日がさし込んでいるためだ。しばらくすると陽は沈み暗くなる。
「あんたは馬鹿で鈍感だけど優しい」
「……」
唇が赤く濡れるように誘う。判っている、月華も俺の事が好きだ、自分も月華を求めているのは判る。だが手を出せない。
「どうしたの」
「終わってからにしたい」
「死ぬかもしれないよ」
「わかっているが……今ここでお前を抱くのは、違う気がするんだ」
「なにそれ」
「きっとお前に溺れてしまう」
「いいじゃん」
体をすりよせる月華の香りで頭がしびれる。抱けばすむことなのに、どこかでやめろと叫んでいる奴がいる。
「月華、きっと幸せにする」
「ん」
口を近づける彼女を見て抵抗できない欲望と一緒に危険だと半鐘がなっている。カンカンカンカン、確かに聞こえる。鋭い半鐘の音で船の中は騒然となった。
「まて月華、何かおかしい」
「本当に、いくじなし」
腕をからめて頭をぎゅっとつかんで口づけをしようとする月華の顔を手で押し戻す。
ズンッ
重い振動が走ると爆発音が聞こえた。天井からバラバラと埃と木くずが落ちてくる、そして船が燃える臭いがする。
「敵襲だ、月華、おいちょっとまて」
「誰かがなんとかするでしょ」
月華に押し倒されて抱きつかれる。とたん爆発音が近くで発生すると、壁の一部が吹っ飛んだ。
阿鼻叫喚の騒ぎの中で、一馬が月華を抱っこして部屋から飛び出す。とにかく甲板に上がると、船のそこかしこで炎が見えた。
「大変です、敵の船が」
兵次郎があわてて指さす先には、鉄甲船が見えた。
(そうか、戦船が一隻とは限らなかった……)