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SS アイデア【夢のタイムスリップ】 #爪毛の挑戦状

 彼はタイムスリップができた。ただ数秒間だけし戻る事ができない欠点がある。

(何の役にもたたない……)

 初めて能力に目覚めたのは車にひかれそうになった小学生の頃で、路地から飛び出して車にぶつかりそうになる寸前で、いつのまにか路地に立っていた。最初は理屈もわからず夢なのかと思ったが、他人には真似ができないスキルであることを理解する。

 だが有用性はない。転びそうになったとか、それくらいにしか使えない。社会に出てからも、宝くじや馬券や株でもうけられないか考えたが、たった数秒では何もできなかった。賭博も考えたが秒単位では儲けるすべがない。

「夢のタイムスリップの力が無駄すぎる」

 変に力をもっているので真面目に勉強もせずに仕事も覚えず自堕落な生活をしていたが、ある時に気がついた。

(万引きなら可能では……)

 時間を戻せる能力は、自分が身につけているものはキャンセルされない。たとえばお金だ。お金をひろって時間を戻すと、またお金が落ちている。無限に稼げるが、紙幣ではむずかしい、同じ番号の紙幣が増えるだけだ。

 彼は時計ならば楽そうに感じた。高級時計をポケットに入れて時間を戻せば、いくらでも取り放題だ。最後に盗らずに店を出ればいい。なるべく高い時計を、店員の注意が切れた瞬間に……

「いらっしゃいませ」
「時計を見せてくれ」
「これはどうでしょうか?」
「もっと高いのだ」
「これでは?」
「もっとっだ」

 高い時計を握りしめて時間を戻してポケットに入れて、また時計を要求した。ポケットは時計でパンパンになると、いきなり肩をつかまれる。

「万引きか!」
「違う!」

 ポケットから時計を落としながら逃げ出した。後ろから怒鳴り声が聞こえる。早く逃げないと、地下鉄の駅に逃げこもうとして足がすべる。本能だ、彼は地面にぶつかる寸前でタイムスリップした。

 そうぶつかる寸前だ。

 気がつくと目の前に地面がある、頭をぶつけながら時間を戻した。頭をすぐにぶつける。そして戻す、またぶつけて戻す……

xxx

「万引き犯はどこだ!」

 店員が彼を見つけると絶句する。血まみれの男が地下鉄駅の階段で死んでいた。顔も頭も崩れて……まるで何十回も頭をぶつけたように……

#爪毛の挑戦状
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#SF
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