SS 竜になる金魚 【#金魚鉢】シロクマ文芸部参加作品
金魚鉢は丸くて小さくてジャリも入ってない。
「がっかりだよ……」
リュウキンの俺はシロとアカの鮮やかな体で金魚鉢の中央に浮かぶ。夜店の金魚すくいでつかまった。今は金魚鉢に入っている。
「昭和かよ……」
金魚鉢は古く今にも壊れそうでヒヤヒヤする。子供が近寄ると金魚鉢をコンコンと叩いて喜んでいる。俺は水面から顔を出して文句を言う。
「おい、エサあるのか?」
子供はびっくりした様子だったが金魚のエサを持ってくる。水面に落ちたエサを食べ終えると
「金魚飼育セットを買ってくれ、これじゃ死んじまう」
子供は親にねだって購入した。セットには投げ込み式の浄化装置とジャリが入っていた。これで水質は安定する。本当はライトと水草も欲しいが、いっぺんに要求しても無理だ。
親には黙っていろとクギを刺すと、素直な子で誰にも言わない。だから俺は快適に過ごせた。
「ねえなんでお話できるの?」
「俺は特別なんだよ」
「特別なの?」
「そうさ俺は竜になるんだ」
子供は嬉しそうに手を叩く。いつか竜になる金魚と信じて大事に育ててくれた。
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「もう私ダメ……」
ラノベが好きな少女は小説家を希望していたが、落選続きでめげている。俺は水面に顔を出して、いつものように少女をなぐさめた。
「そんなにむずかしいのか」
「才能ないの、もう死んじゃいたい」
真剣なのだろう、俺は彼女にために何かをしてやりたい。だから水槽から、よっこいしょと出た。
「え? 外に出られるの?」
「ちょっとノートパソコンを貸してみろ」
ひれで器用にアプリを立ち上げて、俺が長年あたためてきた話を作る。バリバリと一時間で四千字を打ち込み続ける。内容は竜になる男と少女の話だ。男は少女に救われて、竜になって恩返しをする!
俺は口をパクパクさせながら完成を知らせるが、そのまま床に倒れてしまう。エラが乾燥した……
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「やったよ、登竜門のラノベ賞に受かった」
彼女は俺の小説で名前が売れて人気がでる、元から才能はあるから平気だろう。良かった……俺は竜になれなかったが、俺を越えて君が竜になるんだ!
庭にある金魚のお墓に少女は手をあわせている、夕日の空に大きな竜が飛んでいた。