SS 誤算【逢いたい菜】#毎週ショートショートnoteの応募用
「逢いたい菜、逢いたい菜」
長屋で部屋の掃除していると外から物売りの声がする。若い女房が味噌汁の具にしようと戸を開けて声をかけた。
「菜っ葉ちょうだい」
「はーい」
歳は十五くらいの少女がカゴを背負って歩いていた。少女がカゴから取り出したのは、何かの木の根で人の形にも見える。
「……これは何の根っこなの?」
「人を呼び寄せる菜ですよ」
聞けば、まじない使うために根の先の菜っ葉を煎じて飲むと夢で、その人に会えると説明された。
「おかしな、まじないだね」
「根は捨ててください」
わずが五~六文で買うと、モノはためしと自分で味噌汁を作り飲んでみる。すると夢に両親があらわれて懐かしい会話ができた。
「何を泣いている」
「なんでもないよ」
亭主は寝ながら泣いている女房に不審に思いながら朝飯を食べる。そこには捨てて下さいと言われた根の漬物があった。数日して亭主は長屋から消えた。八方探しても見つからない、女房は少女が来るのを待ち構えて問いただす。
「あの根っこは、なんだい」
「別れたい根ですよ、食べると別れたい相手に鬼の形相で追いかけられる……」