ご免侍 八章 海賊の娘(十三話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をした。母方の祖父の鬼山貞一と城を目指す船旅にでる。一馬が立ち寄った島は、水軍が管理していた。海賊の娘、村上栄は協力する代わりに一馬との婚姻を望んだ。海賊の港に鉄甲船が突入する。散華衆の四鬼、大瀑水竜が一馬を襲う。
十三
「船大工に頼んだ」
海賊行為をする小舟は鉄で補強してある。襲う船よりも早く進む細長い早船は、帆で風を受けて飛ぶように海を走れる。その先端に、凹のように掘られた木組と鉄の銛が組み込まれて、矢のように羽がついている。そして火薬筒が銛に取り付けてあった。
「この銛が船に刺さるのですか」
「そうじゃ、そして滑車で巻き取る」
海賊の船は、鉄甲船の大筒が届かない港に停泊させてある。今は港にいた島民が、村上主水の家に集結していた。村上主水が一馬の背中をどんっと叩く。
「俺たちも参加する」
「いたたたっ、危なくないですか」
「平気じゃよ、大筒の届かない場所で挑発してもらう」
隻眼の鬼山貞一が通じ合うように村上主水を見ている。親戚同士で信頼関係が築けたようだ。
敵は上陸して水野琴音を奪うつもりだったが、一馬の働きで上陸部隊を出していない。ただの海賊程度なら、数で押し切れると判断したのが甘かった。
「それでは、琴音、雄呂血丸、お仙は待っていてくれ」
残りの一馬、権三郎、月華、そして船を操る村上栄で、敵を強襲する。
「ご無事で」
水野琴音が一馬の手を握りうなずくと、一馬も安心させるかのように彼女の手を上から握り返す。
「ほらいくよ」
一馬は襟首をつかまれると月華が引きずる。ずるずると引っ張られながらも手をふって別れをおしんだ。
「月華、一人で歩ける」
ぱっと手を離されると一馬は尻餅をついた。
「本当にあんたって、女に弱いね」
「……そうなのか」
「わたしと会った時も同じだったでしょ、鼻の下をのばして」
「あれはお前が……」
「もういうな、恥ずかしい」
ため息をついて一馬を見る月華の眼はやさしかった。