SS 左川ちか詩集【詩と暮らす】 #シロクマ文芸部
詩と暮らすために詩集を買う。その本は希少本でめったに手に入らないと古本屋の老人におすすめされる。
「左川ちか……知らない詩人ね……」
キッチンでコーヒーを飲みながらページをめくる、奇妙な詩は時代性が存在しない抽象的で、鋭利な言葉を私に突きつける。
「本当に異質な言葉の連続……」
生活に疲れて仕事をやめた時の開放感と取り残されるような焦り。仕事は、お客さんに理解しやすい言葉を使っていた。今は真逆の世界を覗いてみる。
きがつくとベランダは真っ赤な夕日にそめられる。空はしかくな雲と月影光る、きれいな暗いソラがある。夕日と朝日がちへいせんで、ぐるぐるぐるぐると回転してゐる。
「わたしの気がへんになったの」
世界のゆがみは、私の前頭葉をおかします。
私は顔をあげませう、トントントントン目の前に
不思議なこびとがおどりませ
ヱいと声をあげ服ぬいで顔から
キラキラ光る目玉が抜ける
ぼとりぼとりとテーブルの上
白い目玉が見つめてる
「お前はいつから正気と思ふ」
にやりと目玉がほほえんだ
「目玉をつぶせ、目玉をつぶせ」
フォークを使って転がる目玉
にゅるりとすべって床一杯
わはははと笑って楽しそう
「ゑゑゑゑゑゑゑゑゑゑゑゑゑゑゑゑゑゑゑゑゑ」
ベランダの先はむげんの宇宙
腕を広げて翼を出して
あの彼方の世界からよびだしませう。
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隣の女が絶叫を始めたんだ、だから俺が恐ろしくて大家に電話したよ、俺は見てない。今は生活保護で絵を描いて暇つぶししているだけだ。俺はヤッテない、本当だ。金なんて盗んでないよ、なんで信じてくれないんだ。女を解体した? そんな度胸はないよ、なんで女の体から触手が出ているのか判らない? 俺にそんな事を聞くなよ。お前が描いている絵に似てるって? そんなもん偶然だ、俺が描いていたのは……
「シュブ=ニグラスだよ」
え? 女がその絵にそっくりだって? 俺は知らないよ。本当だ、ちょっとまってくれ刑事さん。なんで逃げるんだ、俺の腕がまるで触手のように……
※シュブ=ニグラス(千匹の仔を孕みし森の黒山羊)は、クトゥルフ神話に出てくる怪物です。
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