まがいの街
くらい道を歩くと気配がする。
(ああ、またかな?)
少女の体を狙う変質者、声をかける、体にさわる、腕を引かれる。無抵抗なら連れ去られてしまう。
「お嬢ちゃん、どこいくの?」
背後から声がするのでふりかえると、やや小太りのやさしそうなサラリーマンが笑っている。初老だろうか白髪も見える。
「いそいでいるの」
「どこに行くのかな?」
「ちょっと用事」
そっけなくしても彼はあきらめない、じりじりと間合いをつめる。判っている、彼がしたい事は、すぐに判る。
「おじさんと、あそぼうよぉぉぉぉぉ」
彼が絶叫すると顔がぐるりと半回転してアゴだった部分が二つに裂けた。鋭い牙が生えると私に襲いかかる。私は両手をパンっと合掌する。
「大天竺陀羅尼天目」
私の無敵の守護霊、金色に輝く仁王はすべての魔を破壊する。豪腕がうなるとサラリーマンだったモノが血まみれのシミに変わった。
(まるで魔窟ね……)
世界が狂ったのは、お昼過ぎの事だ。学校の机で、いつものように眠りこけていると教室のスピーカーからノイズまじりの放送があった。
「みなさん……下校の時間、じか……、じかんです、ただちにいえに帰って……くだざい……」
生徒達が動揺している中で、先生が教室に入ると同時に家に戻れと怒鳴った。
「なにがあったんですか? 先生」
「わからんよ、昼なのに外が真っ暗なんだ……」
担任は混乱しながらも家に帰そうと生徒達に必死に声をかける。クラスメイトはパニックになりながら学校の外へ向かう。
(なにか嫌な事が……)
前にも大陸系の呪いでビルが魔窟に変わった事がある。今回も同じような現象かもしれない。今は判る。巨大な呪詛が街をおおい始めていた。私は暗闇の通学路を歩き続ける、徐々に濃くなる呪いの元を探しながら……
続く
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