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SS 狂歌【放伐と禅譲】 #青ブラ文学部参加作品(710文字位)
奥州に小さな城があり、そこを兄と弟の領主が守っていた。兄は、年貢の取り立てに厳しく吝嗇家として領内で嫌われている。
「領民は、生かさず殺さず」
ギリギリの生活で恨みがたまっていたのは、家来も同じで贅沢は許されず、質素堅実を常に要求された。
「若君、お願いがござる」
「どうした」
「兄上を滅していただきたい」
忠臣からの進言で、今の主君を殺してくれと頼まれる。
「古来から放伐と禅譲という言葉があります」
「それはなんだ」
「悪逆で帝位にふさわしくない君主は討伐されねばなりません」
「……それが放伐か」
「若君こそ禅譲にふさわしい人物です」
忠臣は、徳の高い人物が領主となり禅譲すべきと説得し、弟は寝所で眠っている兄を刺し殺した。
弟の方はやさしく誰からも好かれる性格で、さっそく城にある米や金を使い、領民達に祭りをするように命じる。人気取りの側面もあるが、兄とは違うと伝えたかった。
領民も新しい領主を喜んでむかえて何ヶ月も祭りを楽しんだが、次の年は凶作になる。たちまちのうちに城の米がなくなる。
「殿、米も金もありません」
「……領民から取り立てろ」
奥州は飢餓も多く、兄はやせた土地を心配して備蓄を怠らなかったが、弟がすべて使ってしまう。領民は過酷な取り立てで、次々と死に絶えると城を守っていた武士も同じ道を歩んだ。
今は狂歌が残るばかり
『けちのとのさまさされてしんだ、ボケのワカギミうえてしぬ』