SS ヒサギの恋(終) ワールドザワールド
あらすじ
クァシンと融合したヒサギは義憤の女神(ネメシス)に変化をする
「ヒサギ、居る?」
大樹の女神が部屋の中に入ると、寝室には見当たらない
世界の歪みを修復するために力を使っていたヒサギは
寝たきりだった筈だが、ベッドは冷たい。
冒険者のアイは外に出ると庭に向かう。
ヒサギは、花壇の花を世話をしていた
後ろ向いて、せっせと土を掘っている
「もう起き上がれるのか」
アイは彼女に近づくと顔を見る
「あらアイ、どうしたの?」
ヒサギの顔は縄状の文様が刻まれていた
文様はゆっくりとだが皮膚の上を移動している。
まるで蛇が移動するように顔も首も手も動き回る文様で
埋められていた
「体は平気なのか」
ヒサギの皮膚に触れると体温が高い
「よくないわね、二人分の力が一つの体に入っている」
ワールドザワールドの女神は心配そうに彼女を見ると
「ガヨクはどうしたの?」と質問をする
「私が老人にしました・・
私の両親を襲って殺したのはガヨクです
正義のために彼の生命(いのち)を罰のために徴収してます」
にっこり笑うと土いじりに戻る
「なにを埋めているんだ、ヒサギ」
見ると土の上に猫がいる
「なんででしょうね、私が触れると死んでしまうの」
「・・・」
アイは絶句して大樹の女神を見る
「アイ・・・彼女は女神として完成しているの、
私は影響を与えられない」
無意識で殺傷権を行使しているヒサギを見て決意する
「大樹の女神様、僕をまたあの多面体の世界に行かせてください」
「もうこの世界は固まっているわ、あなたでは変えられない」
女神は少し考えると、アイデアが生まれた
「人間も女神も、心の中も同じ空間があるわ
その中に入り変えられるかも?」
大樹の女神が冒険者のアイに触れると小鳥になる
小鳥はヒサギの内宇宙の世界に送り込まれた
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
内宇宙(インナースペース)の世界は、前回とは異なり薄暗い。
広大な平面の世界がある、小鳥になったアイは上空を飛びながら
見下ろすと森林が広がり地面には川が流れていた。
森林の中を自由に飛行しながら、何を探すべきか迷っていた。
ここが心の中ならば、人を形作る意識が川になる。
川に語りかければいいのか?でも自分の声は川に吸い込まれて
しまう。
上流から下流に向かうと、水面にきらきら光るシーンが見えた
それはヒサギの記憶だろうか、家の掃除や買い物をしている
そのシーンにはヒサギは映っていない、彼女の視点の記憶だ。
どんどん下流に行くと大きな海に出た。
そして街が出来ている、心の中に街がある?
アイは街にむかって飛ぶと、外の世界と同じで様々な年齢の
人達が働いていた。街の中で道を掃除して荷物を運んでいる
「これが人の心の中なのか」
アイはこの人達が働くおかげで、人間は無意識で外の世界でも
動けると思えた。
街の中央に小さな赤い屋根の家がある
そこに向かって飛ぶと窓から眺めた
ヒサギとアイが居る、なにか口論しているようだ。
窓をつついてみると、ヒサギが気がついて窓を開けた。
窓から室内に入るとアイは人の姿に戻る
「アイ、どうしたの?」クァシンはびっくりしている。
二人を見ながらゆっくりと状況を語る。
「ヒサギは女神になれたが、懲罰の力を無意識に利用している」
ヒサギは申し訳なさそうに
「クァシンと話をしているけど、お互いの善悪の考えが違う
みたいで、クァシンは猫が多いというのよ」
「猫が多すぎるんだよ間引かないと小さな生き物が無用に
死んでしまうよ」
口論がまた始まった
人格が異なる二人では、まとまる事が出来ないのだろう。
アイはクァシンの手を引っ張ると
「もう出よう、外の世界は安定している」
「でも女神の力は大事だよ、ボクが居てサポートするよ」
なにか必死に抵抗している
「それだけじゃない、外のヒサギは体に異常がある」
縞模様の話をする
ぐずぐずするクァシンは
「ボクはもっと、ヒサギと一緒に居たい」
アイは気がついていた
「クァシンもヒサギが好きか?」
クァシンは、ぼんやりとしながら『好き』の意味を考えている
「オレもヒサギが好きだ、愛している」
スフィンクスの前で決意をした事を忘れない。
「ヒサギと一緒に暮らしたい」
ヒサギの手を握ると、ひざまずく。
その手にキスをした。
「オレと結婚をしよう」
ヒサギはプロポーズと悟ると、顔を赤くしながら動揺した
「わ・わたしはまだ若いですし、それに先に孤独王さんへの
返事をしてないし」
未熟な心は愛の告白を処理できない、彼女は拒絶という形で
アイ達を遠ざけてしまう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
気がつくとアイはヒサギを見上げていた。
ヒサギの縞模様は無くなり、いつもの少女に見える。
地面から起き上がると、隣にクァシン寝ている
全知全能の力は消えたのか、元の子供だ。
大樹の女神は彼らを見ながら
「いきなり告白はダメね、まだ速いわよ」と笑う。
日常に戻るとクァシンは前より少しだけ大人なのだろうか
しっかりした態度でヒサギと接しているようだ。
冒険者のアイは、クァシンがライバルになる日は近いと
考えている。
ヒサギはクァシンの融合が解かれた時に元に戻っている。
アイから見るとヒサギは前よりも幼く見えた、
自分も少しだけ成長したのだろうかとアイは感じた。
終