ご免侍 八章 海賊の娘(二十三話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をした。母方の祖父の鬼山貞一と城を目指す船旅にでる。一馬が立ち寄った島は、水軍が管理していた。海賊の娘、村上栄は協力する代わりに一馬との婚姻を望んだ。海賊の港に鉄甲船が突入する。散華衆の四鬼、大瀑水竜は一馬に倒される。
二十三
「月華、手はず通りだ。一馬を連れて江戸に戻れ」
「……はい」
一馬の父親の藤原左衛門は、露命月華に命令する。
「父上まってください」
「お前は、力が弱い。とても散華衆は倒せない。絶対に無理だ」
まるで大きな岩山と話している錯覚を感じる。言葉が通じない、この圧倒的な存在を動かす事ができない。
「江戸には戻るつもりは、ありません」
「わしに刃向かうというのか」
じわりと殺気が立ち上がる。そうだ父親と修行した時と同じだ。この存在におそれを感じる。
「イケニエを欲する神仏を見たい、いやイケニエを求める敵を見たいのです」
「どこにでもある普通の事だ」
「普通ではありません」
「普通だ」
父親が半身になる。
「人は人を搾取する」
誰もが誰かを利用する、それは生死も同じだ。幕府が邪魔と思えば、我らは罪人を切ってきた。どこかの城主が女が欲しいと言えば家臣は妻をさしだした。それはイケニエだ。力のあるものは力がないものから奪う。
「それは、確かにそうでしょうが理不尽です」
「理不尽が、世界の理だ」
理にかなっている、反論しても世界を変える事ができない。
「私は、帰りません」
「強情だな、私の父と同じだ」
父親がにやりと笑う顔は、祖父の一龍斎とどこか似ている。なつかしいような、泣きたいような、これではまるで駄々をこねている幼い子供だ。
「父上、お願いです。私に散華衆を倒させてください」
「うむ、お前の気持ちはよくわかっている」
「それでは……」
「それは出来ない」
「なぜですか」
藤原左衛門の表情は、暗い砂浜でよくわからないが、悲しそうに感じる。
「それは、わしが散華衆の四鬼の一人、隠形鬼だからだ」