ご免侍 十章 決戦の島(十四話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬は、妹の琴音を助けるために鬼ヶ島を目指す。父と母は敵として一馬の前に立ちふさがる。しかし船出をしたすぐに、散華衆のもう一隻の鉄甲船が、襲いかかる。船は沈み助けられたが、敵に捕らえられた。
十四
井戸の水で麻薬の効果が薄まったのか、徐々に体が戻りはじめていた。城の内庭を隠れながら進むが人の気配はまったくない。大月小五郎と共に、茶室に入ると掛け軸を指さした。
「ここから入れる」
「刀が欲しい」
「ああ、それならば納戸に刀を置いてある」
「わかった」
荼枳尼天が描かれている掛け軸を見ると、菩薩の顔が母に似ている気もする。掛け軸の後ろに手をいれると空洞があり真っ暗な通路が延びていた。その先には光がある。
(下り坂だな)
足下をたしかめながらゆっくりと降りると、納戸が並ぶ空間に出る。岩壁に木の扉がついた部屋が並んでいた。地下にある長屋のようにも見える、最初の扉を開けると鬼切りを見つけた。ずっしりと重い刀は他人は使えない異様な形だ。その空間から、まだ先があるのか、かすかに潮の匂いかする。海につながっているのだろうか。
「この先に船着き場があるぞ」
「うむ、助かる」
さらに下ると壁は自然の岩肌に変わり足下も岩の階段になる。進むと最後は大きな洞窟になり、出入り口は海につながっていた。
「この船は……」
平安時代の船は、とても大きく極彩色に塗られていた。
「そうだ、この船で死出の旅路にでる」
ぐるりとふりむくと父の藤原左衛門がいた。ゆっくりと一馬に近づくが殺気はない。そのまま一馬の横をすりぬけて船の方に歩いて行く。いつのまにか大月小五郎は、消えていない。
「父上、お待ちください、死出の旅路とは、なんですか」
「うむ、補陀落渡海は知っておるか」