ご免侍 八章 届かぬ想い(三話/二十五話)
設定 第一章 第二章 第三章 第四章 第五章 第六章 第七章 第八章 第九章
前話 次話
あらすじ
ご免侍の一馬の父が、散華衆の隠形鬼だと暴露された。一馬は、連れ去れた琴音を助けられるのか。
三
「みな、聞いてくれ」
「……なに」
「言えよ」
海賊の娘の村上栄と忍者の月華が一馬を一緒に見下ろす。
「考えるのはやめた」
「それで……」
「はははははっ」
村上栄は笑い、月華は不審そうに一馬の顔を見ている。その眼は少しも一馬を見捨てようとしていない。
「今、大事なのは琴音だ、そして散華衆に囚われている子供達だ」
一馬は心が決まったかのように、二人の少女の顔を見る。
「俺はお前達三人を、幸せにする」
しばらくして少女達が一馬を指さしながら大笑いをはじめた。自分でも馬鹿な事しか言ってないのは理解している。ただ言葉にする事で、自分の気持ちをまとめたい。今は何が大事なのか、琴音だ、拉致された子供達だ。救わなければいけない。その使命感は、きっと本来ある筈の藤原家の家訓なのかもしれない。
「力を貸してくれ」
「最初からそのつもりだよ」
「あははははっ、笑いすぎておなかが痛いよ」
どたどたと玄関からあわてて人が走ってくる、がらりと障子を開けると、元山賊の権三郎が肩で息をする。
「旦那、大変です」
「どうした、権三郎」
「御用船が……帆に葵の紋がついた船が港に来てます」
「なんだと……」
港からはワーワーと声が聞こえてきた、幕府の船が水軍の村にイカリを降ろした。
xxx
「事のあらましは、こちらでも把握している」
「はい」
隠密頭の天狼が、いつものように頭巾をかぶって海賊の屋敷で眼をギョロつかせる。
「お前が琴音を連れて逃げたのは、判っていた」
「はい」
その迫力は、ひさしぶりに会うと判る。眼力だけで人を殺せるような威圧感で体が動かない。